日本の銀行員は思考停止状態!?成長余地の少ない企業へ「ムダ金」を供給してしまう理由Photo:PIXTA
*本記事はきんざいOnlineからの転載です。

 金融検査マニュアルやバーゼル規制の登場を機に、本邦金融機関が格付け制度を導入してから20年ほどになる。銀行の社会的使命は、財務の健全性確保(預金者保護)と金融仲介機能の発揮(信用創造)である。格付け制度が前者のため果たした貢献は論をまたない一方で、後者に与えた負の影響は看過できない。本稿では、本邦における現行の格付け制度の構造的問題を明らかにした上で、事業性融資の活性化に必要な「あるべき枠組み」を考察する。

バーゼル規制の要請と米銀の格付け手法

 バーゼル自己資本比率規制が求める内部格付け制度については、金融庁の告示文書が詳細かつ多岐にわたる要件を定めている。これをあえて一言で表現すると「(債務者格付けとは)債務者のPDに対応するものであること」(金融庁告示)ということになる。

 PD(Probability of Default)とは「一年間に債務者がデフォルトする確率」(金融庁告示)である。すなわち、内部格付け(債務者格付け)とは「自行の債務者を、そのリスクの水準(PD)に応じて序列付け(格付け)する枠組み」ということになる。

 この要件に対応するため、本邦金融機関の大部分(特に中堅・中小企業領域)は、デフォルト判別モデルという統計モデルで格付けを算出している。詳細は割愛するが、実際にデフォルトした先とデフォルトしていない先の膨大な件数の財務データを使用し、統計的手法により向こう1年間のデフォルト確率を推計するモデルである。なお、デフォルト判別モデルによる内部格付けは、自己資本比率の算定のみならず、融資案件の与信判断や、格付け別の与信方針・与信決裁権限など、金融機関の与信業務全般において幅広く活用されている。

 他方、米国の金融機関(および金融規制当局)の格付け手法は、日本とは大きく異なる(注1)。簡単に紹介すると、向こう5~7年程度の将来キャッシュフローを見積もり、その累積額と足元の有利子負債との比率(キャッシュフローレバレッジ)に応じて格付けを決定している。

 本邦金融機関が1年間という短い時間軸で、企業のデフォルトリスク(信用力)に的を絞って格付けを決定する一方で、米国金融機関は長期の信用力に加え、企業の成長性も含めて評価している。将来キャッシュフローとは、借入金の返済原資であると同時に、事業規模・事業収益の拡大という成長性そのものを表しているからである。