俳優が現場にいなくなる?
トム・ハンクスも若返るAI革命

 特に問題となったのは、AIが俳優のデジタルツイン(仮想的な分身)を生成し、それを映画やテレビ番組に登場させる技術である。これにより、俳優が物理的に撮影現場にいなくても、AIが彼らの演技や声を再現できるようになる。

 この技術が進化すれば、俳優の存在が不要になり、デジタル化された俳優の権利や報酬に関する新たな問題が生じる可能性がある。

 こうした状況の中、2024年10月にカリフォルニア州のギャビン・ニューサム知事が、AIの使用から俳優を保護する新たな法律に署名した。

 この法律は、俳優の声や映像が許可なくAIで再現されることを防ぐことを目的としており、AI技術が急速に進化し、映画業界での利用が拡大する中で、俳優のデジタル権利を強化する重要な一歩として注目を集めている。

 1994年に公開された映画『フォレスト・ガンプ/一期一会』のロバート・ゼメキス監督、俳優のトム・ハンクス、ロビン・ライトの3人が再びタッグを組んだ映画『Here』(2024年11月公開)では、トム・ハンクスとロビン・ライトがティーンエイジャーから80代までの年代を演じている。

 現在、60代後半のトム・ハンクスと50代後半のロビン・ライト本人がティーンエイジャーを演じるのはさすがに無理がある、そう考えるのが普通だが、実は2人の若返りを実現するために使用されたのが、「Metaphysics Live」と呼ばれる生成AIツールである。

 似た風貌の若手俳優に若い頃を演じさせるのではなく、AIによって若かりし頃の本人がほぼ再現できたことで映画ファンからは概ね好評のようだ。こうした技術によって、実年齢に関係なくさまざまな役を本人が演じ続けることができれば、一流の俳優は地位を固めることができるかもしれない。しかし、その一方で若手俳優はチャンスを掴む機会が減少する恐れがある。

 このままAI化が進めば、将来的には映画やテレビの制作において、主要な俳優とサポートキャストのみが雇用され、その他の脇役や背景キャラクターはすべてAIで生成されても不思議ではない。このような未来が現実となれば、映画制作における労働力構造が根本的に変わることになるだろう。