この提携は、ライオンズゲートが保有する映画とテレビコンテンツのライブラリを活用し、RunwayがカスタムAIモデルを開発することを目的としている。開発されたAIモデルは、ストーリーボード作成や背景、特殊効果の生成に使用される予定で、これにより制作コストの削減が期待されている。
映画「ジョン・ウィック」シリーズの第5弾が制作される場合、過去のシリーズのデータを基にAIがストーリーボードを生成することなどが検討されている模様だ。また、アクションシーンや特殊効果を必要とするシーンは、従来の手法では非常に高コストで危険を伴うため、AIの活用によって、そのコストとリスクの軽減が期待できる。
俳優も脚本家もAIに?
映画業界の労働構造に波紋
AIが映画制作にもたらす可能性は、映像の生成にとどまらない。未来のハリウッドでは、AI技術が観客とのインタラクションを高め、映画制作のプロセスがより双方向的で分散型になる可能性がある。
たとえば、ファンがAIを利用して自分自身を映画のシーンに登場させたり、物語の展開を変更したりするインタラクティブな映画体験が実現する可能性がある。
また、AIは映画制作における創造的なプロセスを補完するツールとしても期待されている。従来に比べて、異なるシナリオやビジュアルの可能性を探ることは格段に容易になるだろう。
一方で、人間だけが持つ独自の創造性の価値が、より一層高まると考えられる。感情の機微を捉えた演技や、社会的文脈を理解した深みのあるストーリーテリングなど、人間の経験や感性に基づく創造性は、依然としてAIにはまねできない。
今後、こうした人間ならではの創造性を活かしつつ、AIの長所を組み合わせた制作スタイルが主流になっていくだろう。
一方で、こうしたAI技術の進展は、映画業界内の労働構造に波紋を広げている。すでにヨーロッパでは俳優の声を使用し、複数の言語で音声と口の動きが同期した吹き替えを生成できるようになり、吹き替えや字幕制作の仕事が激減しているという。
2023年にニュース等で取り上げられ、大きな話題となった全米脚本家組合(WGA)と全米映画俳優組合(SAG-AFTRA)によるストライキでは、AIの使用が主要な争点となった。映画スタジオ側は、AIを活用して制作コストの削減を目指しているが、俳優や脚本家たちはAIによって自身の仕事が奪われることを懸念したものだ。