Youtubeや海賊版まで学習?
AI映画制作に著作権侵害訴訟続出

 AIが完全に映画制作を主導するには、労働問題以外にも課題が残っている。現段階では、AIが生成する映像は予測が難しく、映像の品質やストーリー展開の一貫性を保つためには人間のクリエイターが重要な役割を果たしている。また、AIが生成する映像や素材には、著作権の問題が伴うこともあり、適切な許可を得ずにデータが使用されることに対する批判も根強い。

 Runwayをはじめとする動画生成AIを開発する企業は、YouTubeなどに公開された映像をトレーニングデータとして使用しており、これに対する著作権侵害の訴訟が増加している。たとえば、Runwayは2024年7月に米国のニュースメディアである404 Mediaによって、「Runwayは人気のYouTubeクリエイターやブランドの動画数千本、さらには海賊版映画をトレーニングに使用している」として告発された。トレーニングのために使用されたとされるYouTubeチャンネルには、ピクサー、ディズニー、ネットフリックス、ソニーなどのチャンネルが含まれている。

 AIが映像生成を支援するためには、大量のデータが必要となるため、データの使用に関する法的な枠組みの整備が不可欠である。

結論
 AIの進歩は止められず、すでに多くの制作現場でAIが活用されている現状から見ても、AIのハリウッド進出は今後さらに進展することが予想される。しかし、技術の進展に伴う労働問題や著作権問題に対応するための法整備、さらには俳優を保護する枠組みの強化が求められている。カリフォルニア州の新たな法律は、AI技術の進化とともに俳優の権利を守る上での重要なマイルストーンとなるだろう。

 一方で、AIは映画の制作プロセスそのものも変革しつつあるが、プロセスを効率化し、制作コストの削減や新たな表現方法を提供するだけでなく、人間の創造性を補完し、拡張するツールとしても位置づけられるべきである。最終的に、AIと人間の協働によって生まれる新しい表現が、ハリウッドの未来を形作っていくことになるだろう。
書影『生成AI・30の論点 2025-2026』(日本経済新聞出版)『生成AI・30の論点 2025-2026』(日本経済新聞出版)
城田真琴 著