どうすれば、自炊をラクに続けられるのか?
買い物、レシピ、調理、献立、片付け……。初心者だろうと、日々料理を作る人だろうと、平等に立ちはだかる壁。「料理を勝手に難しくしているのは自分です」と語るのは、料理を体得したミニマリスト・佐々木典士氏と、自炊料理家の山口祐加氏。新刊『自炊の壁』では、初心者がレシピなしで料理できるようになるステップを完全網羅している。自炊に悩むすべての人に向け、本書の内容の一部を紹介する。

「焼くこと」が第一歩!
佐々木典士(以下、佐々木) (自炊料理家の)山口さんは、はじめて出会った食材は、まず焼いてみると言ってましたね。
山口祐加(以下、山口) そうですね。たとえばロマネスコという幾何学模様の不思議な野菜があります。でもブロッコリーっぽいから、焼くかゆでるかはいけそうだなと想像します。プチヴェールというケールと芽キャベツを組み合わせた野菜があるんですけど、それも同じ。
どんな味がするのか確かめるために最低限の調理法と塩だけで食べてみる。それでその食材自体の味がわかったら、他のこの食材と合いそうだなとか、こういう味付けが使えそうだなという発想が湧いてくるんですよね。
佐々木 シンプルな調理法で、その食材本来の味を確かめるということですね。
山口 新しい絵の具を手に入れたら、とりあえず出して、そのまま塗ってみる感覚ですね。その後で、混ぜたらきれいだろうなという色を考えたりする。
「タンパク質」を組み合わせる
佐々木 (本書で紹介した)焼いて重量の1%の塩をふれば、料理の方程式は満たせる。だから焼き野菜も立派な料理。料理の方程式でいえば、調理法=焼く、調味料=塩で固定されていて、それはどんな食材でも応用が利く。
でも何となく食材を複数組み合わせたものって、より料理らしさみたいなものが出てくるように思いますが、どうしてなんでしょう?
山口 「野菜+タンパク質」という組み合わせも料理の法則だと思いますね。たとえば、ゆでたほうれん草にはかつお節をかけたり、じゃこをかけますよね。これは世界中の料理に共通していると思います。
サラダも、野菜だけじゃなくてベーコンが入ったり。ミネストローネも、チーズや肉類を入れることが多いですし。野菜があったら肉や魚に限らず、卵や大豆製品のタンパク質を足す。
佐々木 タンパク質が分解されると、うま味成分が作られる(イノシン酸)。野菜にもうま味は含まれるけれど(グルタミン酸)、タンパク質由来のうま味と組み合わせるとよりうま味が増し、栄養的にも料理らしく感じる。
スイーツとかコーヒーとか、うま味がなくても美味しいものありますが、メインや副菜にはうま味が大事な要素なのかも。しょうゆや出汁を使うのも、うま味を補うのが目的ですもんね。
「香り」で考える
山口 後は、「素材+香り」ですね。豆腐にはしょうがとか、ねぎをかけますよね。
佐々木 単体でうま味のある肉にも、塩をふるだけじゃなくて、にんにくとかこしょうで香りを付けたりしますもんね。
山口 焼き魚にも、レモンや、大根おろしがあると嬉しいし。
佐々木 「野菜+タンパク質」「素材+香り」という法則は、レシピから離れて料理を作るうえで、すごくわかりやすい指針だと思います。なんらかの食材を目の前にしたとき、何から始めたらいいのかわかりやすい。
山口 私も何か野菜を見たら「どのタンパク質を足そうかな」って日常的に考えてますからね。もしタンパク質がなくても香りを足すと、料理らしくなります。ほうれん草単体で、ポン酢だけでもの足りないと思えば、ごまを足すとか。
料理が成立する条件
佐々木 料理が成立するためには、たくさんのものを混ぜ合わせなきゃいけないわけじゃない。組み合わせる食材は2つだけでも、ぐっと料理らしくなると考えると、レシピを見ずに料理を作るときに楽ですね。
(本稿は、書籍『自炊の壁』を一部抜粋・編集したものです。本書では、料理のハードルを乗り越える100の解決策を紹介しています)
作家/編集者
1979年生まれ。香川県出身。雑誌「BOMB!」「STUDIO VOICE」、写真集や書籍の編集者を経てフリーに。2014年クリエイティブディレクターの沼畑直樹とともに「Minimal&Ism」を開設。初の著書『ぼくたちに、もうモノは必要ない。』は26か国語に翻訳され80万部以上のベストセラーに。『ぼくたちは習慣で、できている。』は12か国語へ翻訳、累計20万部突破。両書とも、増補文庫版がちくま文庫より発売。
山口祐加(やまぐち・ゆか)
自炊料理家
1992年生まれ。東京都出身。出版社、食のPR会社を経て独立。7歳の頃、共働きで多忙な母から「今晩の料理を作らないと、ご飯がない」と冗談で言われたのを真に受けてうどんを作ったことをきっかけに、自炊の喜びに目覚める。現在は料理初心者に向けた料理教室「自炊レッスン」や執筆業、音声配信などを行う。著書に『自分のために料理を作る 自炊からはじまる「ケア」の話』(晶文社)、『軽めし 今日はなんだか軽く食べたい気分』(ダイヤモンド社)など。