また、勤務時間外に仕事の要件でスマホを使用する頻度が高くなるほど、翌日の消耗レベルが大きくなった、というドイツの研究もある。

【勤務時間外でスマホを使うほど翌日の精神的エネルギーが枯渇】

63名の労働者を対象に、連日10日間、オンラインで質問を行った。その結果、オフの間に仕事に関連したスマホ使用が多かった翌日では、仕事中の自己のコントロールのしにくさ(仕事からの自己統制要求)から精神的な疲労度を示す指標(仕事中の自我消耗)の値が高くなった。 出所:Int J Environ Res Public Health. 2018 Aug 15;15(8):1757.

 これら2つの研究から、勤務時間外にいつまでも働くと、睡眠はもちろん、翌日のパフォーマンスも下がるということがわかる。疲れがたまり、集中力や意欲も上がらない、というのは私たちが「休むべき時間に仕事から離れられていない」からかもしれない。

フランスの「つながらない権利」とは?
ヨーロッパで進む法整備

 このような研究結果も踏まえながら、久保氏は「働く人が疲労やストレスから回復するためには、物理的・心理的に仕事から離れる必要があります」と話す。心理的距離を取る必要性は、ドイツのサビーネ・ソネンターグ教授により「サイコロジカル・ディタッチメント(Psychological detachment from work)」という概念で提唱されている。

 フランスでは2016年、労働基準法において、勤務時間外にメールなどで連絡することを禁じる「つながらない権利」が組み込まれた。ポルトガルやイタリアでも同様の法制化が進む。

「個人主義といわれるヨーロッパにおいてもこういったルールを作らなければ個人がオフを守れない、ということ。オンとオフの境目が薄い日本ではなおさら、オフのときに仕事から離れる権利が重視されるべきだと考えます」

「仕事を進めなければ」と思うあまりに、仕事以外の時間にも仕事から距離を置くことができなくなると、疲労を解消できずにパフォーマンスは低下していく。仕事を終えたら、しっかりと線引きをして、オフの時間を取ることによって心身の疲労回復をはかりたい。