将来のことを考えるなら
不可逆的な開発は避けるべき
ツキノワグマの生態については解明されていないことが多いため、現状では、どれだけの森林面積を残すべきという目標が十分には描けません。そのかわりに、いま向き合わねばならない課題に触れておきます。
それは、将来に向けて森林をこれ以上分断させることがないよう、不可逆的な土地利用にはブレーキをかけなければならないことです。
不可逆的とは、元に戻らないこと。どのようなものか、例を挙げた説明が必要でしょう。
たとえばコナラやホオノキなどの雑木林を伐って、薪として利用したとしても、そのまま放置するならば、切り株からすぐに芽が出て、約30年で元の雑木林に戻ります。
広大な場所をいちどに伐るのでなく、毎年交代で伐っていけば、生物多様性は維持されます。
山が生活の舞台だった1960年代までは、日々の燃料である薪を得るための森は不可欠なものでしたから、むやみに開発するわけにはいかず、森林は大面積で残されてきました。

永幡嘉之 著
一方、太陽光発電のように、木を伐ったうえにブルドーザーなどの重機で造成してしまうと、表土とともに、下草も土のなかに眠っている植物の種子も土壌動物もすべて失われます。
そうなると、たとえ利用をやめたとしても、荒れ地の植物は生えてゆくでしょうが、腐葉土ができるまでには時間がかかりますし、寄生・共生関係にある植物などは失われると二度と生えず、生物多様性は元には戻りません。
失われた生態系が元に戻らないこと、これを、私は不可逆的な開発と呼んでいます。利便性の向上とともに山林が不要になった結果、こうした大規模な開発が増えました。
つまり、木を伐るだけなら決して自然破壊ではなく、伐り方さえ間違わなければ、生物多様性は維持されていきます。
将来のことを考えるならば、元に戻らない不可逆的な開発によって森が分断されてゆくことは、避けるほうがいいのです。