直接的な対策になるのは
駆除や狩猟
ツキノワグマの被害に対して、世間は「専門家がなんとかしてくれるだろう」と期待するのですが、クマは知能が高く警戒心も強いだけに、「この対策をとれば被害はなくなる」という切り札はありません。
そのなかで、駆除や狩猟はツキノワグマの個体数を減らすので、もっとも直接的な対策になります。
個体数の多いシカとイノシシは、「指定管理鳥獣」という、増えすぎる動物の数を減らしていくために駆除や狩猟を奨励する制度によって、駆除が進められてきました。
一方でツキノワグマに対しては、これまでは保護を前提にした対応がとられ、有害捕獲はするものの、それ以外では捕獲の数が制限されてきました。それが、イノシシやシカの指定管理鳥獣の制度とは根本的に異なる点だったのです。
しかし、2023年の大量出没を受けて、東北地方と新潟県をあわせた6県の知事から国に対して強い要望が出され、2024年2月に、ツキノワグマは指定管理鳥獣に含まれることになりました。
法律は改正されたばかりなので、今後ツキノワグマをとりまく状況がどのように変化していくかという答えは、まだ出ていません。
根本的に解決するには
森林の質を高める必要がある
ここから先ではツキノワグマの出没を抑えるためには森林の生物多様性を取り戻し、維持してゆくこと、つまり保全が必要だという話を書いていきます。
増えているからクマを駆除すべきと書いたのに、その続きでは自然を守ろうと書く。いったい駆除か保全かどちらの立場なのか、と戸惑う方もあるでしょう。
これまでは「目の前の問題をどのように読み解き、どう対応するか」という短期的な視点で書いてきましたが、ここからは長期的な視点で書きますので、これまでとは視点がかなり変わります。
駆除だけでは問題の解決にならない理由のひとつは、ツキノワグマの個体数には地域差があることです。
秋田県では増えている可能性が高いのですが、全国的にみれば九州では絶滅し、四国では徳島県の剣山系にのみ残っており、総個体数が16~24個体と推定されるまでに減少しています(鵜野-小野寺レイナほか、2019.四国で捕獲されたツキノワグマの血縁関係と繁殖履歴.保全生態学研究24(1):61-69.)。