自動化によって新たな“自然”が出現
「メタ・ネイチャー」の社会では何が変わるのか?

 OpenAI社が内部で共有している AGIに向けたマイルストーンで、最終段階のレベル 5が「組織」とされていることに改めて注目しよう。

 たとえば、鉄道会社全体が自動的に動いている様子をイメージして欲しい。各列車が自動運転されるのはもちろん、ダイヤを作成し、駅を運用し、事故に対応し、おそらくは列車の運行に必要な電力も自前で自動生産し、車両とその部品を作る工場すら自動で運用するかもしれない。

 そのような状態を、筆者らは「メタ・ネイチャー」(自動化によって生じる新たな自然環境)と呼んでいる。メタ・ネイチャーは、社会機能の自動化が拡大することを通して、「鉛筆1本でさえ何人もが関わり分業で生産する」ような社会環境に代わり、言わば「鉛筆が果実のように木に生(な)る4) 」といった新しい自然環境が出現することを意味する。自然が人間にとって自動で動いているように、人工システムの自動化が極限まで進むと、人工の自動システムも人間にとって自然のような対象に変わる。

 一体何を言っているのかと思うかもしれない。しかし、環境のメタ・ネイチャー化はすでに始まっている。私たちは、 ChatGPTや Claudeや Grokといったチャットボットを使うとき、より良い結果が得られるように問いかけ方を工夫する。そういった行為を「プロンプト・エンジニアリング」と呼んだりするが、それはあたかも、より甘い果実が実るように植物の育ち方に介入するのにも似ていて、実際に生産をしているのは人間ではなく、自動で動いている仕組みの方なのだ。

 まとめに入ろう。AGIは、あたかも組織全体として自動的・自律的に動作する。すると、人間と自動システムの関わり方が、ちょうど狩猟採集社会における人と自然との関係に近くなり、必要な財やサービスを環境から採集でき、かつその内容を環境に働きかけて調整可能になると考えられる (メタ・ネイチャー)。

4) あくまで比喩であって、現実的には鉛筆ユーザーの近傍の自動生産工場により生産されるだろう。