なぜ中国でライブコマースが普及したのか?

 さて、このように広く利用されている中国のライブコマースは、どのように広まってきたのか。ライブコマースのサービス自体は5年以上前からリリースされていたが、本格的に認知されたのはコロナ禍になってから、つまり普及が進んだのはここ5年ほどである。

 中国では厳しいゼロコロナ体制が敷かれ、人々の移動が難しくなった。感染の危険を回避しつつモノを売りたいショップが、店舗からライブコマースで商品を実況販売したのがそのきっかけだ。外に自由に出かけられない人々にとって、店からのライブ販売は魅力的だった。特に化粧品販売は、リアルタイムで画面越しに店員と消費者をつないで対話できる点が好評で、一気にライブコマース普及が進んだ。

 その後、中国ではライブコマースに特化したインフルエンサーや、彼らをまとめて仕事を振る事務所が雨後の筍のように増殖し、一気にライブコマースの利用が拡大する。中国のライブコマースについて調べると、KOL(キーオピニオンリーダー)やMCN(マルチチャンネルネットワーク)という言葉が出てくるが、前者はインフルエンサー個人のこと、後者はインフルエンサーを集めた事務所と思っていただければ大丈夫だ。

ライブコマースの「買いたくなる」仕組み

 なぜこれほどまでにライブコマースの利用が増えたのか。中国では、ライブコマースで誰もが買いたくなる仕組みができている。ここに日本と大きな違いがある。

 まず「安い」と信じられている。工場や農場が直販するということは、中間の業者を挟まない、産地直送なのだから安い、という理屈だ。また、安売りやまとめ買いが好きな中国人は「有名なインフルエンサーが販売するということは、吟味して安くおトクに買えるはずだ」と考える。そこで、スマホでライブコマースの配信を見て、気になったものは「お買い得に違いない」と次々に購入する……という流れだ。

 さらには「(有名人の)口コミ力」がある。ライブコマースで商品を買ってもらうために、企業は事務所(MCN)を通してインフルエンサー(KOL)に宣伝を依頼する。インフルエンサーは、抖音(中国向けTikTok)やRED(小紅書、中国のインスタグラム)などのアプリで、その商品について「使ってよかった!」「これって素敵!」などと投稿していき消費者の物欲を刺激する手法が定番となっている。