こうして、売る側は莫大な宣伝費を投じてブランドを認知させ、ライブコマースで売り、消費者はライブコマースで最新のトレンドアイテムだと思うものを最安値で買う~という流れが定着した。中国で急速に人気になったブランドは、こうした手法で一気に知られるようになったものが多い。中国企業は、売りたい商品や知ってほしいブランドがあれば、プロモーションのために大金を投下する。日本よりも動く金額がずっと大きいので、さらにライブコマースは活発になる。

ライブコマース普及の光と影

 ライブコマースには若い人々だけでなくネットリテラシーの低い中高年も引き込まれる。すると、そこを狙う悪い業者も出てくる。「ドリアンを買ったら、腐ったドリアンが届いた」「ごちそうが詰まったセット商品を買ったら、中身がスカスカの箱が届いた」「絞りたてのピュアピーナッツブレンドオイルという宣伝の商品が、届いてみれば別ブランドの食用植物ブレンドオイルだった」といった商品詐欺が目立つようになった。

 また、配信映像詐欺も話題になっている。ライブコマースは工場や農場からの配信でリアリティとお得感を伝えるのが特徴で、例えば配信者が工場内で商品の山に囲まれ、商品が流れ続ける生産ラインを前に語るといった配信が人気がある。すると、こうした背景映像を販売する業者が続々と登場した。配信者が話す様子と、工場などの背景映像とを合成して映像を生成するソリューションや、一周が短いベルトに製品パッケージを取り付けてぐるぐる回し、さも商品が作られているかのように見せる、といった手法が横行。こうした“バーチャル工場”は2万元(42万円)でフルセット購入できることが、CCTV(中国中央電視台)の取材で明らかになっている。

配信用の偽物の工場で「生産が追いつかない!」とアピール Photo.T.Y.配信用の偽物の工場で「生産が追いつかない!」とアピール(微博よりキャプチャ)
工場から配信しているように見せるためのバーチャル工場セット Photo:CCTV工場から配信しているように見せるためのバーチャル工場セット Photo:CCTVよりキャプチャ

 ライブコマースが普及したことで、今まで知らない産地の商品を知ることができたり、中間業者を挟まずに安く買えるというメリットができた。しかし一方では産地詐欺や商品詐欺が氾濫し、詐欺業者がやっていることは結局動画を使わないECサービスと同じ、といった状況にもなっている。中国ではこうしたライブコマースを海外にも広めようとしており、例えばTikTokはベトナムなど海外へもTikTok Shopの展開を進めている。

 中国の事例を見る限り、ライブコマースは右肩上がりで、今後は中国以外でも普及する国が増えるだろう。しかしその一方で、従来のECよりも複雑化した詐欺とも向き合わなければならず、ユーザーはこれまで以上にリテラシーを高めないといけなくなりそうだ。