最初にアメリカ社会の分断要因です。3月11日、トランプ大統領は真っ赤なテスラ車を購入しました。これはマスク氏の仕事ぶりに対する支持の証しだとトランプ氏自身が表明しています。

 トランプ大統領から絶大な支援を受けることは、短期的にはかならずしもプラスではありません。トランプ政策に反感を持つアメリカ国民の約半分からは、トランプ政権のシンボルとなったマスク氏を毛嫌いする空気が高まり、テスラ車の不買運動も起きています。

 現在のアメリカ市場はトランプ氏やマスク氏側の共和党支持者と、バイデン前大統領側の民主党支持者によって、まっぷたつに分断されています。皮肉なことにこれまでテスラのEVを買っていたのは、そのうちの民主党支持者層でした。

 都会に住み、金持ちで、高い教育を受けていて、気候変動などの社会問題に敏感で、EVに乗ることでエコ社会に貢献していることを自己のブランドだと考えるような人々がある意味で典型的な民主党支持者です。

 トランプ氏はそうした民主党の政治に不満を持つ労働者層の支持を得て大統領に当選します。アメリカ第一主義を掲げ、鉄鋼や自動車など競争力を失いかけた製造業にプラスになる関税政策をかかげ、石油産業に対しては「掘って掘って掘りまくれ」と号令をかけ、脱炭素を推進するパリ協定からは離脱します。

 つまり、マスク氏はテスラのコア消費者とは真逆のひとたちの政治的シンボルになってしまっているのです。ここがテスラ株の抱えるひとつめの問題です。

 つぎの問題として、それまでEV市場の拡大をけん引してきた欧州と中国の政治環境も変化を始めています。

 すでにトランプ政権ではパリ協定からの離脱にともない、EV購入の補助金を大幅に削減してしまいました。ところが、そのような動きは別にアメリカだけの話ではありません。ドイツ、フランスなどEV市場をけん引してきたEUも政策方針を転換し始めています。

 背景にあるのが、中国のEVが低価格を武器にヨーロッパ市場への進出を始めたことです。EV化を推進してきたEUの思惑は、ハイブリッドを含むガソリン車からEVへと技術が切り替わることで日本車の競争力をそぎ落とそうと考えていたフシがあるのですが、その思惑が裏目に出ます。