「やる気のなさ」は情報の不足が原因
以前、ある大手企業の新規事業立ち上げに携わりました。そこに「何をやってもダメな部下」と評価されていた20代のメンバーがいました。彼は確かに、指示された以上のことをせず、積極性も感じられませんでした。
しかし、よくよく話を聞いてみると、彼は「何をやっても評価されない」と感じていたのです。それまでのリーダーは「もっと頑張れ」と言うだけで、具体的に何をすればいいのか伝えていませんでした。また、彼がやったことに対してのフィードバックもなく、ただ「まだまだだ」と言われ続けていたのです。
ぼくは彼に、
「この新規事業で一番大事なのは、潜在顧客の生の声を集めることなんだ。来週までに○○業界の人5人と話して、彼らが何に困っているか聞いてきてくれないか」
と具体的に伝えました。さらに、
「彼らの声を集めることで、ぼくらの商品設計が大きく変わる可能性がある。君の取ってきた情報が、この事業の成功に大きく貢献すると思う」
と、その仕事の意味も伝えました。
すると彼は、見違えるように動き始めたのです。5人どころか10人以上の潜在顧客と会い、貴重な情報をたくさん持ち帰ってきました。
彼に「やる気」がなかったのではありません。何をすべきかが明確になっていなかっただけだったのです。
「昭和型」から「令和型」へ転換するための3つの質問
リーダーとしての自分の発想を「昭和型」から「令和型」に転換するために、次の3つの質問を自分に投げかけてみましょう。
1)「もしかしたら、このメンバーは具体的にすべきことが見えていないかもしれない」
部下が理解しているつもりでも、実は認識にズレがあることがよくあります。「このタスクは、何をすれば『完了』と言えると思う?」と問いかけて、お互いの認識をすり合わせる習慣をつけましょう。
2)「もしかしたら、このメンバーはタスクの意義が見えていないかもしれない」
「言われたからやる」ではなく、「意味があるからやる」ほうが、当然動きやすくなります。仕事の背景や目的を共有することを忘れないようにしましょう。
3)「このメンバーが行動できない理由は何だろうか?」
やる気が見えないのは、何らかの障壁があるサインです。その障壁を見つけ出し、取り除くことに注力しましょう。
やる気を上げるのではなく、行動を引き出す
最後に、令和のリーダーとして心がけたいのは、「やる気を上げる」ことではなく、「行動を引き出す」ことです。
やる気は主観的で捉えにくいものですが、行動は客観的に見えるものです。メンバーが適切な行動を取るようになれば、結果は自ずとついてきます。そして、結果が出れば自信がつき、さらに積極的に行動するという好循環が生まれます。
そのための具体的な声かけとしては、
「次の一歩として、具体的に何をしてみる?」
「それをやるために、何か必要なものはある?」
「いつまでにどこまでやってみる?」
といった、行動に焦点を当てた問いかけが効果的です。
部下のモチベーションを直接上げようとするのではなく、行動を引き出し、その行動から結果が出るのを助ける。それが令和のリーダーシップなのです。
令和のリーダーの声かけ
「やる気がない部下をどう変えるか」ではなく、「どうしたら部下が行動できる環境を作れるか」を考える。これが令和のリーダーシップの本質です。
具体的に何をすべきかを明確にし、なぜそれをするのかの意味を伝え、行動の障壁を取り除く。そして小さな一歩から始めて、成功体験を積み重ねる環境を整える。これが重要です。
「やる気を出せ!」と叱咤激励する昭和型リーダーから、「何をどうすればいいか、一緒に明確にしよう」と言語化を促す令和型リーダーへ。
この転換こそが、これからの組織に必要なのではないでしょうか。