「共感」を通じて、部下の「成長」をサポートする
「現状を認め、受け容れる(肯定する)」とは、「できごと・事実」だけを受け容れるのではありません。
ミスをしてしまったときに感じた、思い出したくもない、嫌な、恥ずかしい「感情」を部下自身が認め、受け容れるのです。
その際、上司も、そうしたネガティブな「感情」を受け容れ、それを一緒に味わうと、部下はより一層、そうした「感情」を受け容れやすくなるでしょう。
それを「共感」と言います。
「お客様に詰め寄られて焦ってうろたえてしまったよね」
「あーもっと事前準備しておけばよかった、と後悔しちゃったかもしれないね」
「少し自分を責めるような気持ちになっちゃったかなぁ。しんどいよね」
などと、部下と対等なポジションから同じ一人の人間として「共感」し、相手と同じ「感情」をじっくりと味わい、追体験するのです。
それが「安全安心」を生み出します。
部下自身が認めたくないような「経験」や「感情」を、目の前の上司が「そういうこともあるよね」と一緒に共感してくれている。その「安全安心」を感じ取れると、部下は、自分の「経験」や「感情」を受け容れられるようになり、次に向かう準備ができる。すなわち、「変わり始める」ことができるのです。
認めたくない「感情」を、味わい尽くすことが「出発点」である
つまり、ネガティブな現状を受け容れ肯定することが、成長の第一歩になるということです。
カーナビに喩えるとわかりやすいでしょう。カーナビで「目標到達地点」、つまりは「あるべき姿」だけを入力してもルートは見つかりません。「現在地点」を入力して初めてルートは見えてくるのです。
そして、「現在地点を入力する」ということは、「認めたくない現状」を認め、受け容れるということです。「現在地点」に目を背けて、「あるべき姿」である「目標到達地点」ばかりを見ていても、決してルートは見つからないのです。
これを、ゲシュタルト療法におけるもう一つの中核的な理論である「未完了の完了」で説明することできます。
誰にでも、認めたくないような、直視したくないような「経験」がありますが、そのような無意識下にある「逃避」「抑圧」「歪曲」された「できごと」や「感情」(これこそが「現在地点」です)をしっかりと認め、感じ尽くして、完了させない限り、次のステップには進めないという理論です。
つまり、未完了だった「できごと」や「感情」を、十分に味わい尽くすことで完了させたときに、人は初めて次のステップに進み、成長を始めることができるということです。
すなわち、上司が部下の「過ち」を容赦なく指摘したり、「(それではダメだから)こうした方がいい」などとアドバイス(部下否定)をしたりすると、「逃避」「抑圧」「歪曲」が強化されるため、部下は「現在地点」を認めることができないということであり、それでは、「目標到達地点」に向かって第一歩を踏み出すことができないのです。
ここで上司がやるべきなのは、部下に問題指摘をしたり、アドバイスをすることではなく、部下が「逃避」「抑圧」「歪曲」していることを肯定し、受け容れることによって、部下が「現在地点」を受け容れ、「未完了の完了」をするサポートをすることなのです。
つまり、三流リーダーは部下の「問題指摘」をし、二流は丁寧に「アドバイス」をするが、一流は部下の「共感」することから始めるのです。
(この記事は、『優れたリーダーはアドバイスしない』の一部を抜粋・編集したものです)
企業研修講師、公認心理師
大学卒業後新卒でリクルート入社。商品企画、情報誌編集などに携わり、組織人事コンサルティング室課長などを務める。その後、上場前後のベンチャー企業数社で取締役、代表取締役を務めたのち、株式会社小倉広事務所を設立、現在に至る。研修講師として、自らの失敗を赤裸々に語る体験談と、心理学の知見に裏打ちされた論理的内容で人気を博し、年300回、延べ受講者年間1万人を超える講演、研修に登壇。「行列ができる」講師として依頼が絶えない。また22万部発行『アルフレッド・アドラー人生に革命が起きる100の言葉』や『すごい傾聴』(ともにダイヤモンド社)など著作49冊、累計発行部数100万部超のビジネス書著者であり、同時に公認心理師・スクールカウンセラーとしてビジネスパーソン・児童生徒・保護者などを対象に個人面接を行っている。東京公認心理師協会正会員、日本ゲシュタルト療法学会正会員。