経営者の巨額報酬問題に私が強くこだわるのは、それがアメリカ型資本主義の現在地を端的に示していると考えるからだ。
ミルトン・フリードマンが思い描いた純粋な株主資本主義ならば、経営者は株主の利益に尽くし、あくまでその成果に応じて分け前を得るはずだ。しかし、アメリカ企業に広がっている現実は違う。株主利益の最大化を建前では掲げつつ、実態としては「経営者利益の最大化」が追求されてはいなかったか。
CEOは現代に蘇った
「古代の大哲学者」なのか
アメリカの経営者は、なぜ目眩を覚えるほどの額の報酬を受けられるのだろう。
株主に利益をもたらす稀有な能力と抜きん出た実績、そして重い責任に対する対価、といった理屈で主に正当化されてきた。あるCEOの任期中に株価が上がり、たとえば時価総額が50億ドル分増えたのならば、年3千万ドルの報酬ぐらい安いものではないか、というのもよくある擁護論だ。
ジョージ・メイソン大学の売れっ子経済学者、タイラー・コーエンが原書を2019年に出版した『ビッグビジネス 巨大企業はなぜ嫌われるのか』(Big Business: A Love Letter to an American Anti-Hero)は、悪役に仕立てられがちな大企業やそのCEOたちへの賛歌である。常識的な考え方を覆す、いかにもコーエンらしい一冊だ。
労務や営業、財務、政治への働きかけ、テクノロジーの理解など、CEOに求められるスキルが極めて高度かつ多様になっている。コーエンはそう説明し、CEOを「古代の大哲学者」に擬することで、巨額報酬を擁護する。
「CEOほど『哲学的』な仕事はない。新しい思考を生み出して、ものごとの本質を理解する能力に関して、トップレベルのCEOは今日の世界で指折りの存在だ」
半年後のトランプの勝利を
はっきりと予言したコーエン
コーエンとは以前、なぜ日米欧の賃金が低迷しているのかについて、ワシントン郊外のレストランでひとしきり議論したことがある。ヒラリー・クリントンとドナルド・トランプが大統領選を争う構図が固まった2016年春のことだ。クリントン優位が半ば常識だったが、コーエンは半年後のトランプの勝利をはっきりと予言していた。
先進国が直面する問題の根源は生産性の低迷であり、「労働組合の抑圧や最低賃金の低さが賃金を押しとどめている」という民主党の説明も、「減税で賃金を上げられる」という共和党の主張も、ともに支持者向けの偽りのストーリーだと断じた上で、トランプについてこう語ったのだ。