アメリカで大きな話題を呼び、多くの読者に新しい視点を与えた『Master of Change 変わりつづける人:最新研究が実証する最強の生存戦略』(ブラッド・スタルバーグ著、福井久美子訳)が指摘するのは、人生を消耗させる「思考の癖」だ。本稿では、本書の内容をベースに、自分らしい生き方を取り戻すコツを紹介する。(構成/ダイヤモンド社書籍編集局)

人生には浮き沈みがついてまわる
スウェーデン出身のスピードスケート選手、ニルス・ファンデルプールは、オリンピック金メダリストとして輝かしいキャリアを築いた。しかし、その道のりは決して順風満帆ではない。
ファンデルプールは一時期、プレッシャーによる精神的な落ち込みに苦しんだ。そんな中で、一般的なアスリートとは異なる方法を選んだ。
10代の頃から全てを捧げてきたスケートに固執せず、スケートとは無縁の友人たちと過ごす時間を確保したり、軍隊での経験を積むなど、あえて多様な活動に時間を割いたのだ。
その結果、自分を再発見し、精神的に成長した。最終的に競技に復帰し、金メダルを獲得するに至った。
『Master of Change 変わりつづける人:最新研究が実証する最強の生存戦略』の著者スタルバーグは、私たちはアスリートではないものの、ファンデルプールの体験から学べることは多いと述べる。
人生には誰しも浮き沈みがある。思うようにいかないとき、深く落ち込んでしまう人と、逆境を乗り越えて前向きに生きる人がいる。その違いはどこにあるのだろうか。
アイデンティティを多様化する
この本では、次のように説明している。
1つの活動にすべてを懸けるのは構わないが、状況が変わった時のために、他の可能性も用意したほうがいいだろう。
もっと良いのは、さまざまなアイデンティティを1つに調和させて、包括的なアイデンティティを作ることだ。そうすればその時々に応じて、特定の顔を前面に出したり引っ込めたりできる。
わたしの人生を振り返ると、一部のアイデンティティにどっぷり浸っていた時期がある。たとえば、父親、夫、作家、コーチ、友だち、アスリート、隣人といったアイデンティティだ。アイデンティティのどれかを軽視すると、人生がうまくいかなくなることを身をもって学んだ。
他方で、すべてのアイデンティティをしっかり保てば、人生のいずれかの領域がうまくいかなくなっても、別の領域に頼ることで活力が湧いて、自分を取り戻せることがわかった。すると、しっかりと地に足がついて、どんな困難も切り抜けられるようになる。
──『Master of Change 変わりつづける人:最新研究が実証する最強の生存戦略』より
落ち込みやすい人は、自分のアイデンティティを特定の役割に過度に依存しがちだ。
たとえば、仕事がすべてになっている人は、仕事で失敗したりポジションを失ったりすると、自分の存在意義そのものが揺らいでしまう。
一方で、多くのアイデンティティを持ち、それらをバランスよく保っている人は、たとえ一つの領域で挫折しても、他の側面が支えとなり、前を向く力を取り戻せる。
つまり、落ち込みにくい人になるためには、自分のアイデンティティを一つに絞りすぎず、多面的に育てていくことが大切なのだ。
たとえば、仕事だけでなく、趣味、家族、友人との関係、地域のつながりなどにも意識を向ける。そうすることで、人生の一つの領域で壁にぶつかっても、他の領域が支えとなり、自己肯定感が揺らぎにくくなる。
変化の多い時代だからこそ、複数のアイデンティティを持ち、さまざまな側面から自分を支える土台を作ることが重要だ。
そうした多面的なアイデンティティこそが、どんな困難にも柔軟に適応し、前向きに生きる鍵となる。
※本稿は『Master of Change 変わりつづける人:最新研究が実証する最強の生存戦略』の内容を一部抜粋し、編集を加えたものです。