
武田薬品工業、塩野義製薬──日本を代表する製薬大手が数年内にドル箱医薬品の特許切れを迎えます。これに伴う急激な売上高の減少は、「パテントクリフ(特許の崖)」と呼ばれます。かつては年10億ドル超を売り上げるブロックバスター薬があれば安泰と言われたビジネスも、異業種からの参入が相次ぎ、競争は激化しています。各社はどうやってこの危機を乗り越えようとしているのでしょうか? AI時代における持続的成長へのヒントを探ります。(グロービス ファカルティ・グループ・オフィス テクノベートFGナレッジリーダー 八尾麻理)
「パテントクリフ」とは?
市場を揺るがす“崖”の衝撃
「パテントクリフ」は、製薬業界ではよく知られた言葉です。それまで独占的に販売していた高収益の医薬品が特許存続期間の満了を迎え、ジェネリック医薬品やバイオシミラー(類似構造を持つ後発のバイオ医薬品)に市場を奪われて、急激に売り上げを落とす現象を指します。企業の屋台骨を揺るがす、重要な局面といえるでしょう。
この現象は、経営戦略における「プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント(PPM)」でいうところの、"金のなる木"から"負け犬"への急転落と捉えることができます。
一般的な事業では、市場が成熟する(成長率が下がる)につれて競合の数が飽和状態になり(市場シェアが低下)、次第に売り上げが減少するため、”金のなる木”から”負け犬”への移行は徐々に起こります。