【ロシアを封じろ】第1次世界大戦後に行われた「残酷な戦略」とは?
「地図を読み解き、歴史を深読みしよう」
人類の歴史は、交易、外交、戦争などの交流を重ねるうちに紡がれてきました。しかし、その移動や交流を、文字だけでイメージするのは困難です。地図を活用すれば、文字や年表だけでは捉えにくい歴史の背景や構造が鮮明に浮かび上がります。
本連載は、政治、経済、貿易、宗教、戦争など、多岐にわたる人類の営みを、地図や図解を用いて解説するものです。地図で世界史を学び直すことで、経済ニュースや国際情勢の理解が深まり、現代社会を読み解く基礎教養も身につきます。著者は代々木ゼミナールの世界史講師の伊藤敏氏。黒板にフリーハンドで描かれる正確無比な地図に魅了される受験生も多い。近刊『地図で学ぶ 世界史「再入門」』の著者でもある。

第1次世界大戦後に行われた「残酷な戦略」とは?
突然ですが、質問です。学生時代に世界史を勉強されたみなさん、「地図」に苦労しませんでしたか?
大半の受験生は地図が苦手です。私は2つの理由があると考えます。
1つは情報量。教科書や資料集などの地図は様々な情報にあふれており、そのまま頭に入れようとしても情報量が多すぎるのです。
もう1つは視点。情報量が多い地図は、ただ漫然と眺めても記憶にはなかなか残りません。どのような地図であっても注目すべきポイントがあります。視点を正しく設定するとどのようなことがわかるか。一例を示してみましょう。下図(図1)をご覧ください。

この地図は第1次世界大戦後のヨーロッパの地図です。中央を注目ください。この時期のヨーロッパには8つの新興国が生まれました。フィンランド、エストニア、ラトヴィア、リトアニア、ポーランド、チェコスロヴァキア、ハンガリー、ユーゴスラヴィアですね。
では、これらの国々の位置を見るとどうでしょう。ちょうど南北にほぼ一直線に並んでいることがわかりますね。
ここがポイントです。第1次世界大戦中にロシア革命が発生し、ソ連という世界初の社会主義国家が誕生します。これに、イギリス、フランスといった西ヨーロッパ諸国やアメリカが警戒したのです。そこで、敗戦国となったドイツやオーストリアなどの支配下にあった東ヨーロッパ諸国を独立させることで、ソ連に対する防波堤としたのです。
こうして見れば、この地図もただの国名の羅列ではなくなるはずです。それぞれの国家の位置や意義、さらに「ソ連の誕生」「ロシア革命」「社会主義」といった現象がつながり、新興国の立ち位置や傾向が大まかに予想できるようになったのではないでしょうか。
「これらの国々の国境線はあくまで恣意的なものでしかない。大国の思惑や民族対立・領土問題などによって、各国の政情は不安定だった」と述べても、さほど疑問に感じないはずです。このように地図を読み解けば、個別の事象がつながり、一般的に知られている(あるいは表面的に理解されることが多い)出来事を、より深い次元で捉えなおすことができるのです。
(本原稿は『地図で学ぶ 世界史「再入門」』の一部抜粋・編集を行ったものです)