
米マイクロソフトのある幹部は2000年、登山家で物理学教授のチェタン・ナヤック氏(53)に魅力的な提案をした。ワシントン州レドモンドにある同社に加わって、近くのレーニア山に一緒に登り、そして量子コンピューターを作ろうというものだった。
ナヤック氏はそれから2年以内に同州最高峰のレーニア山に登頂した。しかし実用的な量子デバイス開発への道のりは、現在も続いている。
ほぼ全てのテック大手が量子コンピューターの実用化に向けた開発に取り組んでおり、暗号化や医療などの分野で飛躍的な進歩が可能になることを期待している。従来のコンピューター(古典コンピューター)のビット(情報の最小単位)が0か1のどちらかであるのに対し、量子コンピューティングでは量子ビット(キュービット)と呼ばれるビットを使用し、0と1の状態が同時に存在することができる。これによりキュービットは今日のコンピューターよりも多くの情報を処理し、特定の計算を指数関数的に高速実行することが可能になる。
ナヤック氏は、マイクロソフトで約20年間にわたって量子コンピューター開発に取り組んできた数百人の化学者・エンジニア・数学者で構成されるチームを率いている。「ステーションQ」と呼ばれるこのチームは、アルファベット傘下のグーグルなどのライバル企業が採用している方式よりもリスクが高く、それほど広く受け入れられていない方式を用いている。