いまシリコンバレーをはじめ、世界で「ストイシズム」の教えが爆発的に広がっている。日本でも、ストイックな生き方が身につく『STOIC 人生の教科書ストイシズム』(ブリタニー・ポラット著、花塚恵訳)がついに刊行。佐藤優氏が「大きな理想を獲得するには禁欲が必要だ。この逆説の神髄をつかんだ者が勝利する」と評する一冊だ。同書の刊行に寄せて、ライターの小川晶子さんに寄稿いただいた。(ダイヤモンド社書籍編集局)

考えなくてもいいことは「自動化」する
日本初のプロゲーマー梅原大吾さんは、YouTubeチャンネルにてゲーム好きな若者たちからの相談に対し、いつも素晴らしい回答をしている。あるとき、「対戦をする際、どのゲームでも中級以上になると展開が速すぎて思考が追いつきません」という相談者に、「それは考えなくてもいいことを考えちゃっているから」と答えているのが面白かった。
ゲームが強い人は「こういう状況ではこれ」というのを決めてあり、自動化しているので対処が速い。そのぶん、本当に必要なことに頭を使えるのだそうだ。
「やめたい感情」への対処法
梅原さんは心の習慣においても、決めていることがある。嫉妬の感情が湧き起こったとき、即座に「俺が悪い」と考えることを習慣にしているという。嫉妬とは「自分もできたはずなのに、やっていない」という自己嫌悪に近いものだと考えているからだ。
たとえば、生まれつきのイケメンには嫉妬しないが、積極的に周りに話しかけてモテているような人には嫉妬をする。それは「俺も勇気や積極性があればそうなれたはずなのに」ということだ。
だから、そういう人を見て嫌な気持ちが湧き起こったら、その瞬間に「自分が悪い」と思うように決めたのだ。これを習慣にしたら、嫉妬することはほぼなくなったと言っていた。
嫉妬についての見方はいろいろあるかもしれないが、梅原さんの考え方でいけば、確かに相手は一切悪くない。自分がいやな感情になっているのは自分の問題でしかない。自分を幸福にするために、嫉妬を打ち消す心の習慣をつくったわけである。こういうところがまた、梅原さんのメンタルを強くしているのだろう。
実は、ストア哲学者のエピクテトスも、同じことを言っている。
悪い習慣の「代わり」にする行動を決める
したくないことがあるなら、それをしないようにし、代わりの何かをすることに自分を慣れさせればいい。
これと同じ原理は、心のなかで起きることにも当てはまる。
怒りを感じたときは、悪いことがあなたに降りかかっただけでなく、その感情が生じる習慣が強化されたことになる。
いわば火に油を注いだようなものだ。(エピクテトス『語録』)
――『STOIC 人生の教科書ストイシズム』より
「したくない」と思う習慣があるなら、「それをしない代わりにすること」を決めて、自分を慣れさせればいい。
2000年以上前から、こんなにシンプルにわかりやすく悪習をやめる方法について語られていたのだと思うと感慨深い。時代を問わない普遍的な教えである。
行動の習慣も、心の習慣も同じだ。
「こういうときに怒りの感情が湧き起こる」「不安に襲われる」など、捨て去りたい心の習慣があれば、その感情を暴れさせる代わりにすることを考えてみよう。
たとえば、「それは私の幸福とは何の関係もない」と心の中で唱えてみるのも1つの方法だ。
まずは、自分が「したくない習慣」に陥っていると気づくこと。そうして、それに代えられる「よりよい反応」や「行動」を考えてみてほしい。
(本原稿は、ブリタニー・ポラット著『STOIC 人生の教科書ストイシズム』〈花塚恵訳〉に関連した書き下ろし記事です)