ジャパン・アクティベーション・キャピタルは、2024年4月に募集を完了した初号ファンドで約1300億円という巨額資金を集め、脚光を浴びた。創業者はメガバンクを経て、グローバルなプライベートエクイティ(未公開株式)ファンドの日本の経営幹部の一人として、数多くの経験と実績を積み上げてきた大塚博行氏だ。投資先の潜在力を顕在化させるバリューアップ(業績と企業価値向上)戦略、その先に描く日本経済活性化のビッグピクチャーを語ってもらった。
潜在力のある日本企業は多い
だが、残された時間は少ない
編集部(以下青文字):外資を中心としたアクティビストやプライベートエクイティ(PE)ファンドなどによる日本企業への投資が増える一方、東京証券取引所はPBRが低迷する企業に改善策の実行を要請しました。こうした状況を投資家の一人としてどう見ていますか。

代表取締役社長 & CEO
大塚博行
HIROYUKI OTSUKA 1992年住友銀行(現三井住友銀行)に入社。海外留学より帰国後、2001年までM&Aアドバイザリー業務に従事。2001年カーライル・グループを経て、2002年ラザードに移籍。ニューヨーク本社並びに東京オフィスにおいて多数のクロスボーダーおよび国内M&A案件に関与。2006年にカーライル・グループに復帰後、マネージング・ディレクター、パートナーを経て、2020年より副代表。2023年秋にニュートン・インベストメント・パートナーズを設立、2024年7月ジャパン・アクティベーション・キャピタルに社名変更。
大塚(以下略):日本には大きな潜在力を秘めた会社が数多いのですが、そのポテンシャルが誰からも見える形で顕在化している例は、まだまだ少ないと思います。
日経平均株価は過去5年で大幅に上昇しましたが、これを牽引しているのは一部の超大型株や半導体関連企業などで、それ以外の上場大手・中堅企業は資本市場からの評価がそれほど上がっていません。
株価は、市場からの成長期待との相関が高いですが、企業の価値を表す指標の一つにEBITDA倍率(注1)があります。このマルチプル(倍率)が高いほど、その企業への成長期待が顕在化しているといえますが、大手・中堅の国内上場企業平均はアメリカと比較すると低いままです。
注1)企業価値(時価総額と純有利子負債の和)がEBITDA(利払・税引・償却前利益)の何倍であるかを示す。買収時などの企業価値評価、国際比較などで用いられる。
将来価値を高めるには、将来へ向けた大胆な投資が必要です。余っているキャッシュの使い道がないのであれば、アクティビストの要求通り自社株買いや配当を増やすのも致し方ないですが、それだけで企業の本源的な価値が上がるわけではありません。
日本企業に問われているのは、過去の蓄積を短期株主にすべて吐き出すことではなく、その蓄積でもって未来をどうつくっていくか。自社の経営リソースを使って、10年後、20年後の会社〝あるべき姿〟をどう実現するかが問われているのです。
それを頭では理解できていても、体が動かない。大胆な経営の意思決定や投資の実行ができないのは、どうやって履行するかの〝how〟が伴わないケースが多いからだと思います。
ジャパン・アクティベーション・キャピタル(JAC)は、我々のリソースや経験を含めてhowを提供し、主要株主の一社として投資先の経営イニシアティブの実行をサポートします。
大塚さんはどういう思いでJACを創設されたのですか。
前職(グローバル投資会社カーライル・グループの日本副代表)ではカーブアウト(注2)案件全般を統括していたこともあり、大手企業のトップと会う機会が多かったのですが、「事業売却などの〝守りの経営〟と成長に向けた戦略投資などの〝攻めの経営〟を一緒に回していくのが難しい。その経験・ノウハウがあるファンドに、上場を維持しながらサポートを受ける仕組みはないだろうか」という質問をよく受けました。
注2)企業が子会社や事業の一部を戦略的に切り離すこと。
事業の売却ばかりやっていると、会社の規模はどんどん小さくなります。肝心なのは売却で得た資金を使って、コア事業や新規事業をどうやって強く、大きくしていくかです。そのノウハウが不足していると実行をためらい、結果として守りの事業売却だけで止まってしまう。
経営変革の意思は日本のあちこちで生まれています。ノウハウやネットワークを持つ誰かが、実行を後押しすれば意思決定もスムーズになり、ポテンシャルを発揮し、資本市場でも高い評価を受ける企業が増えます。ただ、日本に残された時間はそんなに長くない。
ファンドキーマンの一人だったので、前職を辞めるのが簡単でないことはわかっていましたし、50代半ばで初めて起業することに迷いもありましたが、日本企業の潜在力発揮を通じて日本経済復権の一助になれるのはいましかないと思ってJACを創設しました。