上司一人に対し部下はその数倍~数十倍の人数ですから、多勢に無勢。しかも、上司は常に部下から完璧を求められ、少しでも失敗すると批判される立場にあるからです。
実際、東京にお住まいの方はご存じと思いますが、山手線新橋駅近辺などにある赤提灯が並ぶ飲み屋街で交わされる会話の大半は「上司の悪口」です。
それがいちばん盛り上がり、部下が溜飲を下げるのに最適な話題だからです。
そして、そうした場で“槍玉”にあげられることを、上司は敏感に察知します。
自分の評判が悪い……。
そう感じた上司は自信を失い、これまでの「教示型」を失敗だったと判断して、アドバイスを控えるようになっていきます。
こうして、みごとに「回避型」リーダーが誕生するというわけです。
“振り子”の軌道から脱却して、
リーダーシップの「質的」転換をする
こうして、「教示型」と「回避型」を行ったり来たりする“振り子”運動が始まります。
そして、「教示型」と「回避型」は、一見、正反対のリーダーシップ・スタイルのように見えますが、本質的には“同じ穴のムジナ”にすぎません。
なぜなら、「回避型」リーダーは、ほとんど「教示・アドバイス」をすることはないかもしれませんが、それは単に「我慢」しているだけ。
一皮めくれば、その裏側には抑圧された無数の「教示・アドバイス」が隠れているのです。
そして、部下は、それを鋭く見抜きます。
「この上司は口にはしないけれど、自分のことを否定的に見ているんだ」「この上司は口にはしないけれど、自分のことを低く評価しているんだ」と察知。「回避型」リーダーとの間に、ひそかに心理的距離を取り始めるのです。
このことからもわかるように、「教示型」で失敗し「回避型」に“振り子”を戻したところで、本質的にはあまり意味はありません。
大切なのは、「教示型」と「回避型」を行ったり来たりする“振り子”の軌道から脱却すること。
すなわち、リーダーシップの「質的」転換を行うことなのです。
(この記事は、『優れたリーダーはアドバイスしない』の一部を抜粋・編集したものです)
企業研修講師、公認心理師
大学卒業後新卒でリクルート入社。商品企画、情報誌編集などに携わり、組織人事コンサルティング室課長などを務める。その後、上場前後のベンチャー企業数社で取締役、代表取締役を務めたのち、株式会社小倉広事務所を設立、現在に至る。研修講師として、自らの失敗を赤裸々に語る体験談と、心理学の知見に裏打ちされた論理的内容で人気を博し、年300回、延べ受講者年間1万人を超える講演、研修に登壇。「行列ができる」講師として依頼が絶えない。また22万部発行『アルフレッド・アドラー人生に革命が起きる100の言葉』や『すごい傾聴』(ともにダイヤモンド社)など著作49冊、累計発行部数100万部超のビジネス書著者であり、同時に公認心理師・スクールカウンセラーとしてビジネスパーソン・児童生徒・保護者などを対象に個人面接を行っている。東京公認心理師協会正会員、日本ゲシュタルト療法学会正会員。