どうやって部下とチームを育てればいいのか? 多くのリーダー・管理職が悩んでいます。パワハラのそしりを受けないように、そして、部下の主体性を損ねるリスクを避けるために、一方的に「指示・教示」するスタイルを避ける傾向が強まっています。そして、言葉を選び、トーンに配慮し、そっと「アドバイス」するスタイルを採用する人が増えていますが、それも思ったような効果を得られず悩んでいるのです。そんな管理職の悩みを受け止めてきた企業研修講師の小倉広氏は、「どんなに丁寧なアドバイスも、部下否定にすぎない」と、その原因を指摘。そのうえで、心理学・カウンセリングの知見を踏まえながら、部下の自発的な成長を促すコミュニケーション・スキルを解説したのが、『優れたリーダーはアドバイスしない』(ダイヤモンド社)という書籍です。本連載では、同書から抜粋・編集しながら、「アドバイス」することなく、部下とチームを成長へと導くマネジメント手法を紹介してまいります。

正反対のようで“似たもの同士”
「教示型」リーダーと「回避型」リーダー──。
私が見るところ、世の中の上司・管理職の大半はこのどちらかに分類されるのではないでしょうか? 部下に積極的に指示・命令・指導する「教示型」と、そうした「教示」を避けようとする「回避型」の2つのパターンです。
ただし、かつての私がそうだったように、最初は「教示型」でやっていたものの、その結果部下たちに嫌われて、マネジメントが成立しなくなり、「回避型」へ路線変更したリーダーも意外に多いのではないでしょうか?
しかし、「回避型」ではチームを制御しきれなくなって、やむなく「教示型」へと回帰する。私自身がそうでしたが、このように両者の間を“振り子”のように行ったり来たりする上司が多いのではないかと思います。
この二つのリーダーシップ・スタイルは、一見すると全く異なりますが、「教示」を増やすか減らすかというだけの違いであり、同じ軌道上にある“似たもの同士”にすぎません。ただ、両者のリーダーシップを比較することで、とても大切な視点を獲得することができるので、この記事ではそのことについて論じたいと思います。
“優秀な上司”のもとでは「部下」が育たない
皆さんのなかには、
「優秀な上司のもとでは部下は育たない」
「無能な上司のもとで部下は育つ」
という言葉を聞いたことがある人は多いと思います。
そして、それを体験した方も多いのではないでしょうか?
かくいう私も、まさにそれを体験した一人です。私は、バブルのピークに大学を卒業して、新卒でリクルートへ入社しました。1年間だけ求人広告の法人営業を経験したあと、事業企画室へ異動し、就職情報誌の商品企画を3年間担当しました。そのときの二人の上司についてお伝えしたいと思います。
一人目の上司は、仕事が“できる風”な「教示型」リーダーでした。
難しいカタカナの経営用語を連発し、次から次へと仕事をつくり出し、部下に資料作成を指示して、自分は次の会議へと走って行きます。そして、会議から戻ってくると、部下がつくった資料に具体的な修正を指示したり、自分で真っ赤に赤字を入れて完成させ、すぐに次の指示を出すといった具合です。
いかにも“できる風”な上司なのですが、その下で働く私にとって楽しい環境ではありませんでした。
当時の私には、新たな価値創造をするクリエイティブな仕事をしているという自覚は皆無。まるで、ベルトコンベアに乗って流れてくる仕事(作業)を、上司の指示に従ってひたすらこなしているような「働き方」になっていたからです。
当然、私のモチベーションは上がりません。“やらされ感”たっぷりで仕事をしていたため、スキルが向上しないばかりか、主体性・自発性のかけらもない“問題社員”だったように思います。
部下に頼ってばかりの“できない上司”
そんな私に転機が訪れたのは翌年のことです。
それまでの上司が別の部署へ異動し、その代わりに、全国トップの営業成績をあげていた若手女性所長が異動してきて、私の上司になったのです。彼女をA課長と呼ぶことにしましょう。A課長は異動してくるやいなや、私に向かってこう言いました。
「オグラ! 私、営業から企画室に異動してきちゃったわよ。私、営業のことしかわからないから、いろいろ教えてねー」
僕は、「は、はい」と返事をしました。
するとA課長は、すぐに僕に質問をしてきました。
「オグラ! なんかさっき、営業部長からわけわからない質問受けたんだけど、これどう対応したらいいの?」
私にとってはたいして難しくもない対応です。
すぐにA課長へ関連部署を紹介し、対応手順をお伝えしました。
すると彼女は、意外な反応をしたのです。
「わぁ! オグラさん、すごーい! 頼りになるぅ!」
この程度のことでほめてもらえるのは、私にとって想定外でした。
しかし、まんざら悪い気はしません。「いやぁ、それほどでも……」と言いつつ、にやけていたように思います。
「役員会でプレゼンして」と頼まれる
さらに依頼は続きます。
「ねぇ、オグラ! 今度、役員会で新商品のコンセプトをプレゼンしなくちゃならないのよ。私、経緯とかよくわからないしさ。この資料、オグラさんがつくったんでしょ? オグラさぁ、私の代わりにプレゼンしてよ」
私は驚きました。
「え? 無理ですよ。だって役員会は課長以上しか出席できないはずです。僕みたいな平社員は入れません」
「いいのよ。私がなんとかするから、オグラさんプレゼンしてよ。わかった?」
と強引にまとめます。
こうして私は、本来ならば入ることのできない役員会で、プレゼンをするという貴重な体験をすることができたのです。
しかも、会議が終わるやいなやA課長が私のもとへ走ってきて、「オグラさん、すごーい!」と言って拍手してくれました。私はまたまた、まんざらでもない気持ちになりました。