戦勝国になったら日本は繁栄できたのか原爆ドーム Photo:PIXTA

もし日本が第二次世界大戦で戦勝国になっていたら、アメリカのように豊かで強い国になれたのか?戦後80年が経ったいまも多くの人が抱く疑問だが、その場合、さらに深刻な困難を抱えることになった可能性が高い。近現代史研究者が、「あの戦争」の意義を解説する。※本稿は、辻田真佐憲『「あの戦争」は何だったのか』(講談社)の一部を抜粋・編集したものです。

戦勝国になったら
日本は繁栄できたのか

 日本が米英となんらかの手段で協調し、第二次世界大戦で戦勝国の側に回ったとしよう。それで日本は繁栄と安定を享受できたと断言できるだろうか。

 いや、別のかたちで深刻な困難を招いていた可能性すらある。

 戦後のフランスがアルジェリア戦争やインドシナ戦争といった植民地独立戦争に直面して大きく疲弊したように、日本も朝鮮半島や台湾で同様の事態に巻き込まれていたかもしれない。

 事実、戦前から各地で実力をともなう反帝国主義運動が展開されていた。

 満洲事変のさなかである1932(昭和7)年1月には、東京で昭和天皇にたいする暗殺未遂事件が起き(桜田門事件)、同年4月には上海で日本の軍関係者や外交官らを狙った爆弾テロが起こっている(上海天長節爆弾事件)。いずれも朝鮮人による犯行だった。

 もし日本が戦争を回避し、なおも植民地支配を続けていたならば、こうした抵抗運動はさらに激化し、国内外において殺伐とした状況が広がっていただろう。

 また、国内にも不安定な要素は少なくなかった。戦前の日本社会は、現在とは比べものにならないほどの格差を抱えており、財閥や華族など特権階級の腐敗や専横はメディアの批判対象となっていた。