もちろん、老舗の巨大組織ならではの課題もある。2027年に創業100周年を迎える同社のマーケティングインフラの多くは、一方通行のダイレクトメールが主流だった時代に設計されたもので、多チャネル(Webサイトやアプリ、SNSなど複数の顧客接点を活用すること)、リアルタイム(レコメンデーションをはじめ顧客の行動や状況変化に即応すること)、パーソナライズ(顧客の属性や行動履歴に基づいて最適な情報やサービスを提供すること)が当たり前の現代とは根本的に相容れない構造。マーケティング領域でのAI活用が急激に進む時代に、このギャップをどう埋めるかが喫緊の課題だった。

 しかし、クック氏は「最大の障壁はテクノロジーではなく、私たち自身にあった」と断言する。一体どういうことか。

基本に立ち返り、やるべきことを4つに整理

 このような改革を前に、必ず俎上に乗るのが「何から着手するか」だ。「他人が退屈だと思うことを魅力的に感じる傾向がある」と自己分析するクック氏は、一見地味な基本にこそ価値があると確信し、やるべきことを4つに整理した。

(1)プロセスフローの文書化
 組織内で「企画から実施までどう進めるか」と尋ねると、人によって答えが違う。まずは実際の業務の流れを「見える化」することで、全員の認識を合わせ、どこを改善すべきかが明確になる。

(2)データソースの追跡
「この報告書の数字はどこから来たのか」を必ず確認する。元データまで遡ることで、情報の信頼性が確保でき、より効果的な活用方法も見えてくる。

(3)実装ユースケースの文書化
 新しいシステムを導入する際、最初にどんな使い方をしたかを記録しておく。「あの時こう決めたから今こうなっている」という経緯を残すことで、後から機能を拡張する際のトラブルを防げる。

(4)責任の所在の明確化
 この業務の責任者は誰か明確にする。これにより、その後の改善活動での混乱や作業の重複を防ぎ、スムーズな業務改革が可能になる。