過去、2005~2006年にライブドア事件が起きたときがそうであった。2005年2月に時間外取引で、放送グループの株式を大量に買うというかたちで、敵対的買収が仕掛けられた。放送グループ側からは、社員一同が経営参画に反対するという社員声明までが発表された。

 メディアも世論も、買収を歓迎しないムードで一色に染まった。過半の株式を保有しさえすれば、その株主に経営に関する決定が何でも委ねられるという原則は、国民感情からも受け入れにくい。そうした嫌悪感が、企業買収に向けられた。

 この反発は、森林などの不動産買収に比べると、企業買収が働き手の生活を脅かすことに直結しているだけに、格段に大きかった。世論は、もしも自分が放送グループの従業員であったならば、きっと不安だろうと考えて、反発にシンパシーを感じた。不安心理の「反射」がそこに起こった。

 同じような社会心理は、ほかの経済活動でも起こる。

 消費者マインドの悪化を研究すると、完全失業率が高まると、そこで消費者マインドと連動して、消費支出が落ち込むのがわかる。本当に、景気が悪化して失業する人は、数%だったとしても、人々は身近な人や知人・友人がリストラに遭ったと聞くと、それがまるで自分の身に降りかかった災難のように思えてくる。

 人々は、周囲の人がそうなることで、もしもの災難を自分事として受け止めて、消費に慎重になる。その効果は、時間がしばらく経っても続く。

社長より報酬が高い外国人役員…
悔しさがにじむ日本企業の内実

 円安が進んでいることの背景には、日本経済が衰退しつつあるというトレンドが重なっている側面もある。成長力の乏しい国は、投資資金を海外から引きつけにくくなる。

 時の政権が、日本の成長力が落ちていることを正しく認識せず、限られた財政資金をどう配分するかばかりに気持ちを向けると、数年間を経て投資資金にそっぽを向かれるだろう。

 日本は円安になって、あらゆるものが、海外から見ると割安になっている。だからと言って、簡単に日本国内に投資を呼び込めると勘違いをしてはいけない。いくら安売りをしようとしても、成長力の乏しい国には魅力を感じてもらえない。