
エコノミストの熊野英生氏は、近年の超円安傾向には物価高騰以外にも多くのデメリットがあると指摘する。このまま円安が続けば、海外投資家から見放され、日本は未来がない国と見なされる恐れがある。日本経済が陥る負のスパイラルと、その打開策に注目が集まる。※本稿は、熊野英生『インフレ課税と闘う!』(集英社)の一部を抜粋・編集したものです。
敵対的買収が当たり前に?
円安ニッポンに迫る“静かな侵略”
筆者は、円安の隠れたデメリットとして、日本の資産が割安だということで外資に買われていくこともあると考えている。
日本円の通貨価値が下落することで、買われるのは森林や町家だけではない。今後、強く警戒されるのは、企業買収の増加である。海外投資家は、今までよりも少ないドル資金で、日本企業の買収に必要な円資金を調達することが可能になる。
外国人は、割安で日本企業の株式を取得できる。2022年に投資ファンドが買い手となったM&A(合併・買収)の取引総額は約240億ドル(1ドル=130円換算で約3.1兆円)と前年比4割強に増えた(金融情報会社リフィニティブ調べ)。買い手の中心は外資系だ。
敵対的買収を仕掛けられたとき、日本の経営者は自分たちの地位が危なくなると、本能的に拒絶反応を示すであろう。その心理的インパクトは、日本の森林や家屋のような不動産買収リスクよりも遥かに大きいはずだ。人間の生活自体が揺るがされるからだ。
まだ、現時点ではその現実味が乏しいが、一度、象徴的な事例が起きると、日本の空気はたちどころに変わるであろう。