現役感満載の松嶋菜々子が魅せる
鮮やかさと艶やかさ、さみしさ
さらりと描いているけれど、家の子がひとり養子に行って、家族がバラバラになるなんて、令和的な感覚だと悲劇でしかない。けれど、戦国時代や江戸時代を思うと、家を最も重要視していたから、その家を守るために養子縁組は当たり前だった。昭和2年頃も、明治時代にできた家制度が浸透していたから、家を存続するための養子も当たり前であったことだろう。
仕方ないとはいえ、実の家族が他人のようになっているのはさみしい。嵩は千尋を連れて外に出かけ、シーソーに乗って「ギッコンバッタン ギッコンバッタン」と一緒に遊ぶ。それを登美子に見つかり「大切なお坊ちゃんにケガでもさせたらどうするの?」ときつく注意されてしまう。
登美子としては、養子に出した子とあまり親しくしては、寛や千代子に悪いと気を遣っているのだとは思う。でものぶは「あんたのお母ちゃんきれいやけんど、しょう(とても)怖いお母ちゃんやね」と実に率直に発言するのだった。
登美子が再婚するため、御免与町を出たのはそのすぐ後であった。家族4人の絵を見ながら「前を向かなきゃ」とつぶやいていたのは、そんな思いがあったからだったのだろう。家制度の社会では、嫁ぎ先で夫に先立たれると支えてくれるものがなく生きづらかったのかもしれない。
そのため新しい夫と家が必要になるものなのかも……。そして、古い家の子どもはその家に置いていくしかなかった。女性にとってつらい時代だったのではないだろうか。
大正浪漫の名残のような艶やかな着物を着た登美子は、高知に用事ができたと、彼岸花の咲く道を日傘を差して去っていく。
きれいで現役感満載。そのうえなんだかちょっと冷めた登美子を、松嶋菜々子さんが鮮やかかつ艶やかに演じている。
筆者が感心したのは、嵩を散髪するシーン。はさみを軽快に動かしながら、セリフをなめらかに語っている。松島さんは器用なんだなー。そして、さっぱり切り終わったあと、「嵩の耳、父さんそっくりねー」とやさしく語りかける。これがお別れの言葉だったのだなあと、あとでしんみりさせられる。