それから数年経ちますが、この近視率低下はさらに進んでいます。国レベルでの近視の予防は、じつは中国での歴史が古いのです。昔は遠くを見ることが大事だと、目の前に親指を出させて、親指の爪を見た後に窓から遠くを見る、次にまた親指を見てから遠くを見るという実験を何千万人もの小学生に対して10年以上続けましたが、まったく効果がなかったばかりか、近視はどんどん進んでしまいました。

 また近くのものを見るのがいけないということで、子供たちがあんまり近くで物を見ないように顎台を作って本を読ませたり、さまざまなことにチャレンジさせましたが、効果のあったものはありませんでした。

 ところが2018年、習近平主席が青少年近視予防法案というものを作り、中国の近視率をとにかく下げるべく動きました。近視というのは失明に繋がる病気なので、ただ眼鏡をかけて矯正すればいいというものではなく、しっかりと視力をコントロールしろという法律を作ったのです。

アジアで進む近視対策
日本もようやく動き出す

 そこで中国でも、上海の南にある温州(日本では温州みかんで有名)にEye Valleyという複合施設を作って近視の進行を抑える大がかりな国家プロジェクトを始めています。

 そこへ僕も何回か行きましたが、驚きです。Eye Valleyは世界中の目の会社、全部で250社と契約し、近視を中心に眼科分野のイノベーションを起こすことを目指して活動しており、さらに施設内に病院や研究所、関連する学校もあり、目に関する研究と臨床、産業化の構造を全部備えているようなところなのです。

書影『「外にいる時間」があなたの健康寿命を決める』(サンマーク出版)『「外にいる時間」があなたの健康寿命を決める』(サンマーク出版)
坪田一男 著

 そこでは屋外活動を奨励し、窓を大きくして外の光を入れ、近視率を下げようという努力をしています。国レベルで外遊びが重要なことを認識して実践しているんですね。

 シンガポールでも“Keep Myopia away, go outdoors and play!”という標語とともに「とにかく外に行きましょう、そして近視を治しましょう」というポスターが小学生に向けて作られており、すでにアジアの国では対策が始まっています。

 日本では遅れること数年になりましたが、ようやく2023年12月に近視対策推進議員連盟が元厚生労働大臣である田村憲久氏を会長として結成され、小学生のときに外遊びをもっとやるべきだという要望書が出されました。

 日本でもやっと始まったのかという嬉しさと同時に、ちょっと遅すぎるのではないかという、なんともいえない複雑な気持ちです。