
今年2月の文部科学省の発表によると、2024年度の近視の子どもの割合は過去最大を記録した。近視はとても身近な目の不調と捉えられ、軽視されがちだが、失明を招く目の疾患とも深く関わっている。中国などのアジア各国では、国をあげて近視対策を進める向きもあり、近視改善は大きな関心を集めている。そんななか、近視やドライアイの研究を行う坪田一男氏は “外で太陽の光を浴びること”が近視や認知症の予防につながると指摘する。健康と外の光の密接な関係とは?※本稿は、坪田一男『「外にいる時間」があなたの健康寿命を決める』(サンマーク出版)の一部を抜粋・編集したものです。
睡眠不足は認知症になりやすい!?
40Hzの光や音で治す研究も実施
僕の友人のMIT(編集部注/マサチューセッツ工科大学)のリーフェイツァイ教授は、2017年に画期的な論文をNature誌に発表しました。それは40Hzの光を目に入れることにより、認知症を治すという研究です。
認知症を光で治せるなんてすごいと思いませんか?
彼女は、初期には、この40Hzの光をガンマ波のいちばん良い波長と考え、まずは脳の細胞に40Hzの波長を作り出すところから始めました。
彼女が最初に使ったテクニックはオプトジェネティクスという方法です。詳しくは説明しませんが、直接的に脳の細胞を40Hz、すなわち1分間に40回振動させることによって元気にするというものです。これによって、脳の細胞の1つである線維芽細胞が活性化し、お掃除を始めます。
ご存知のようにアルツハイマー病ではアミロイドβのような不要なタンパク質のゴミが脳に溜まってしまうことが言われているのですが、この線維芽細胞が活性化されて、お掃除を始めて、アミロイドβが減るというわけです。
さらに彼女は、細胞を直接刺激するのではなくて、目から40Hzの光を当てることによって(目は脳の一部ですから)アミロイドβを減らすことができるという画期的な発見をしています。
後で話しますが、彼女の使っている光は白色の光で、我々が開発しているバイオレットライト(編集部注/太陽光に含まれる波長360~400nmの紫色の光。近視の改善やうつ病の予防につながる)とは少し異なります。
いずれにしろ、光によって認知症を治そうというような研究が実際に行われているのです。
その後、彼女はコグニート社という大学発スタートアップをボストンに設立し、4000万ドルの資金を集めて臨床研究を行っています。良い結果が出ることをみんなが期待して待っているところです。
そしてつい最近、彼女はこの40Hzの光で、脳のグリンパティックシステムという、もう1つのお掃除の経路の活性化を発見し、2024年のNature誌に発表しました。
睡眠をとると脳の中がお掃除されて、アミロイドβなどが溜まらないことはよく知られています。睡眠が足りなくなると認知症になりやすく、睡眠が足りていると認知症が予防できるというのはこのためだと言われていますが、なんと、白色の光40Hzと同時に40Hzの音を聞かせると、このお掃除システムが活性化して脳を綺麗にしていくというのです。