いまシリコンバレーをはじめ、世界で「ストイシズム」の教えが爆発的に広がっている。日本でも、ストイックな生き方が身につく『STOIC 人生の教科書ストイシズム』(ブリタニー・ポラット著、花塚恵訳)がついに刊行。佐藤優氏が「大きな理想を獲得するには禁欲が必要だ。この逆説の神髄をつかんだ者が勝利する」と評する一冊だ。同書の刊行に寄せて、ライターの小川晶子さんに寄稿いただいた。(ダイヤモンド社書籍編集局)

なぜ愚痴が出なかったのか?
幼稚園のママ友関係は、園の特色や、その代によってだいぶ変わるようだ。
女子ばかりのグループを非常に苦手とする私は、「ママ友グループ」と聞くだけで恐ろしいイメージを抱いていた。私はこれまで派閥というものに属したことがない。ママ友派閥があったら私はもちろん入れないし、きっと困ったことになる。
派閥が作られるのは、特定の属性の人たちに対する不平不満や嫉妬がきっかけだろう。
たとえば、保護者には係があり、ボランティアでさまざまな仕事がある。負担が偏ることはよくあることで、不平不満から悪口大会になってもおかしくはない。
しかし、私が保護者として通った幼稚園では派閥が生まれることがなかった。私の耳には愚痴・悪口は一切入ってこなかったし、全体的にみんな仲が良かった。かといってベタベタせず、家庭のことを詮索することもない。
コントロールしないリーダー
この空気を作ったのは、保護者の会の会長を名乗り出てくれたママだ。彼女はまったくコントロールしない人だった。
本当は嫌だけど仕方がない、みんなのためにやるよ、という感じもなく、リーダーオーラをまとってバリバリという感じもなく、ただ粛々とリーダーを買って出て仕事をこなしていた。協力してくれない人に対してもイヤな顔ひとつせず、誰の悪口も愚痴も言わなかった。特定の人とだけ仲良くするということもない。本当に完全にフラットだったのだ。
この「一切コントロールしない」という彼女の影響力はものすごく大きかったのだと思う。周りにいた私たちは良い影響を受けた。積極的に係の仕事をしたいと思ったし、何も不満を感じない。むしろ感謝の気持ちが大きかった。
彼女は何も押しつけなかったけれど、誰よりも信頼されていた。
これは子育ての場に限った話ではなく、職場など他の組織にもそのまま通じる話だろう。実際、仕事でも、ダメなリーダーほどマイクロマネジメントをしたがるが、人は自律性があるときにこそ力を発揮できる。
細かな方法は組織やメンバーのレベルによって変わるだろうが、いかにして、メンバーに自律的に動ける感覚を与えるかはリーダーの腕の見せどころだと思う。
この態度は、実はかの有名な哲学者ソクラテスの態度に通じている。
ストア哲学者のエピクテトスは、ソクラテスを引き合いに出しながら「他者にいい影響を与えること」について言っている。
有能なリーダーは手本を示す
……他者が自分なりに最善に思う方法で自分のことに取り組んでいるあいだ、彼は彼で、自然と調和した状態を保ちつつ、彼自身に関することだけを行っていた。
他者も自然と調和した状態になるまでそうしていた。(エピクテトス『語録』)
――『STOIC 人生の教科書ストイシズム』より
他者をコントロールすることはできないのだから、他者が自然と調和する状態になるまで自分のできることをやればよいということだ。
まったくコントロールしてこない人が、できることを一生懸命やっている様子を見て、私たちは感銘を受ける。自分もそうありたいと思う。その人は結果的に大きな影響を与えているのだ。
これはすごいことじゃないだろうか。
私もそんな人になりたいと思っている。
(本原稿は、ブリタニー・ポラット著『STOIC 人生の教科書ストイシズム』〈花塚恵訳〉に関連した書き下ろし記事です)