私のお父さんは誰?慶應大病院「精子提供」で生まれた人が訴える切実な理由写真はイメージです Photo:PIXTA

>>前編『「精子提供すべきではなかった…」90歳の男性が若かりし日の出来事を後悔するワケ』から読む

悩み苦しむ当事者が浮かばれそうもない
「特定生殖補助医療法案」とは

「今回出た法案を見ると、いったい誰が幸せになれる法律なのか、すごく疑問です。本当に、第三者からの精子・卵子提供で生まれた子どものためになるのか。遺伝子上の親について何を知りたいかは、当事者の子ども自身に決めさせてほしいです」

 こう訴えるのは、第三者からの精子提供で生まれた石塚幸子さん。現在40代の石塚さんは、23歳の時に母親から「非配偶者間人工授精」(AID)で生まれたことを告げられた。精子の提供者は母親も知らないという。

 衝撃的な事実を知った当時、石塚さんは母親を信頼していたからこそ、裏切られたように感じてしまった。また、23年間の人生は何だったのか、何を信じてよいのかがわからなくなり、自分は一体何者なのか苦しんだ。

 そんな石塚さんが問題視するのが、2月に参議院に提出された「特定生殖補助医療法案」だ。この法案はもともと、AIDで生まれた子の〈出自を知る権利〉の保障が目的だった。その内容は、(1)卵子や精子を提供したドナーの名前や生年月日、マイナンバーなどの情報を、国立成育医療研究センターで100年間保存すること、(2)成人した子どもが希望すれば、ドナーの身長、血液型、年齢を情報開示できることなどが、盛り込まれた。

 一方で、氏名など個人を特定できる情報は、ドナーが了承した場合のみの情報開示にとどまった。これは、ドナー側に決定権があることを示す。そのこと自体、〈出自を知る権利〉を持つ子どもの視点に立っていないことは明らかだ。

 日本におけるAIDは1948年から慶応義塾大学医学部で始まり、生まれた子は1万人以上いると言われる。しかし、長らく親が子にその事実を伝えないことが慣習だった。そのため、大人になって出自を知った当事者が、悩みや苦しみを抱えるケースも多い。

 2月、【本当に子どものため?特定生殖補助医療に関する法律案 国会提出を受けて】と題したオンライン・ディスカッションが緊急開催された。AIDで生まれた人や精子提供者らは、この法案の何に憤っているのか? 活発な意見交換の中から、いくつか厳選して紹介する。