一般社団法人ドナーリンク・ジャパンなどによる、オンライン・ディスカッションにおける意見の一部を紹介する(筆者要約)。

加藤英明さん(職業は医師、第三者による精子提供で生まれた)
 AIDが始まったのは1940年代末と言われています。そこから75年も経ってようやく法律化の運びとなり、一つの区切りではあります。しかし、精子提供者がどんな人なのか、やはり会ってみたいし、話してみたい。遺伝子上の親に会えるということが、私たちの心のケアにつながることを多くの人に知ってほしいです。

木野恵美さん(仮名、精子提供で生まれた)
 自分がどこから来たのか、何者なのかが分からないと、アイデンティティを構築できません。精子・卵子を提供するということは、人間を生み出すこと。提供者は自分の遺伝子を受け継がせるのですから、子が求める遺伝情報を開示し、面会や交流もあってしかるべきだと考えます。

あおいさん(仮名、AIDで生まれた)
 今回の法案の目的に〈出自を知る権利〉を掲げるのであれば、提供者の血液型や身長、年齢を知ることができれば十分かというと、そういうことではないと思います。また、提供者情報を開示するための年齢が18歳と規定されていることにも疑問を感じています。安易に、「子どものための法律」といった言葉を使わないでほしいです。

海道明さん(仮名、AIDで生まれた)
 法的夫婦のみを対象者にし、同性カップルなどを含まないという点で、異性愛家族主義を過度に特権化している点が引っかかります。また、提供者のプライバシーの権利と、生まれてくる子どもの知る権利が対立するのであれば、子どもの知る権利を優先すべきではないでしょうか。

中田満義さん(仮名、精子提供者、90歳)
 国会に提出された、卵子・精子提供ドナーの血液型と身長と年齢については一律開示し、それ以上の情報を知りたい場合、ドナーが同意する情報だけ開示するという法案には反対です。

 子が出自を知りたいと望む限り、それを知らせる体制を作ることが、社会の義務だと思います。AIDで生まれた子が、出自が分からないため苦しむことがあるという実態が明らかになっている以上、AIDと〈出自を知る権利〉をセットにして考えるべきだと思います。

 私が64年前にAIDに協力した際、10例ほどで辞めたのには理由があります。生まれる子に対して、大人が秘密にすればそれでいいのか、と大きな違和感を持ったからです。この医療の関係者から、AIDで生まれる子について、ドナーである私にも知らされませんでした。