相続税をめぐる悲劇は続く

 無田家が相続のときになくしたのは、財産だけでしたので、まだ良い方かも知れません。なかには財産だけでなく、相続争いから親戚をなくした人もいます。

 さらに、相続税問題から心労で寿命を縮めてしまった人もいますし、命をなくしてしまった人もいます。バブルの終わりごろに相続があった家族では、相続税が原因で自殺をしてしまった人も少なくないとも言われました。

 ここで新聞に取り上げられた、「相続税が払えなくて死を選んだ初老の夫婦」の記事を紹介します。バブル経済が破綻して不動産価格が急落していたころ、高級住宅街の代名詞ともなっている東京・大田区田園調布でのできごとです。

 小さな町工場を細々と経営していた初老の夫婦がいました。同居していた父親が病死し、自宅の土地約320平方メートル(相続税評価額3億2000万円)と、工場のある借地の借地権などを相続しました。これにかかる相続税は、合わせて1億9000万円ということでした。

 借地権はもともと処分が難しい財産で、そのうえ相続した借地権には借家人がおり、処分は不可能でした。自宅の土地は形状から分割して処分するのは無理で、また物納も難しいと思われました。

 結局、この夫婦は自宅の土地を一括して売却し、相続税を支払ったあとで別に自宅を購入する方法を選びました。長年住み慣れた田園調布に住み続けることは、最初からあきらめていたようです。

 ところが自宅の土地を売り出したときは、土地の値段がどんどん値下がりしていたころです。相続税の納付期限が過ぎても、買い手は現れませんでした。
売値も下げ、路線価の20%以上も下回る値段をつけましたが、それでも売れませんでした。

 近所の人たちの話によると、このころの奥さんのやつれようはひどく、体調も崩し、ノイローゼ気味だったということです。そんなときに、国税局から差し押さえを予告する納税催告書が送られてきました。その税額は延滞税も加えて、2億300万円に増えていました。

 その一週間後、夫婦は相続税の重圧に耐えかねて服毒自殺を図りました。その後に、土地はようやく売れ、税金を払った後にほんのわずかの金額が遺族の手元に残ったということです。