日本人は薬が好きで、薬を飲むことでどこか安心しているところもある。また、本人はよくても、入所者の家族から「なぜ薬を減らしたんだ。病気が悪化したらどうするんだ」と問われることもあり、家族に対する説明もきちんとしなければならない。日本の高齢者の多剤処方は、難しい問題なのだ。
「必要とされている」その1点が
90歳現役医師を動かす
私の高齢者施設での仕事を少し紹介しておこう。
勤務は平日の月曜日から木曜日までの週4日。施設での役割の1つが、医師として約90人の入所者の健康管理を行うことだ。毎日、出勤すると看護師から入所者の健康状態の報告を受け、病院での受診や検査が必要と判断した場合には、それができるよう手はずを整える。週1回、回診があり、入所者1人ひとりと対話をしながら、そこでも健康状態を確認している。
正直に言って、この年齢になって毎日働きに出かけるのは大変だ。体も疲れるし、人の健康を管理するという責任感の重さも肩にのしかかる。しかし、仕事だから行かなければならない。そして、この、行かなければならないという状況が、意外と大切なのではないかと思っている。
施設に行けば、看護師やほかのスタッフから入所者について報告を受けたり、相談されたりする。回診すれば、入所者から「先生と話したい」「先生が来てくれるのを待っていた」と言われ、みんなが集まる食堂までわざわざ車いすで出てきてくれる方もいる。そうやって話をすることは紛れもなく私にさまざまな刺激を与えてくれるし、自分が必要とされているという実感は、私を元気にしてくれる。
行かなければという思いが、毎日に張り合いを与えてくれているのだ。それに、働きに行ける場所があるのは、ありがたいことでもある。
医師という特別な資格を持っているからこそできることと言われれば確かにそうかもしれないが、一般的にみても高齢者の就業率は年々上昇傾向にあるという。