例えば、脳梗塞の既往と高血圧があり、白内障もある人は、脳梗塞の治療を受けた総合病院と、ふだんから高血圧の管理をしてもらっている近所のクリニックと、白内障を診てもらっている眼科に通っている、ということが考えられる。それらの治療が別々に行われていて、薬も全く別々に処方されているとしたら、薬の飲み合わせなどから、予想できないトラブルが起こる可能性も想定される。
多剤処方で副作用も…
薬を減らすことの難しさ
「令和4年社会医療診療行為別統計」によると、75歳以上では、薬剤を5〜6種類院外処方されている人が16.3%、7種類以上院外処方されている人が23.8%いる。75歳以上の約4人に1人が7種類以上の薬を処方されているのだ。そして、高齢者では、処方される薬が6種類以上になると、副作用を起こす人が増えることがわかっている。多剤処方による転倒の発生数増加を報告する論文も多い。
そのため、高齢者の診療では、できれば主治医を1人定め、すべての医療機関でどのような治療を受け、どのような薬を処方されているか、一括して把握しておけることが理想といえよう。
もう1つ、高齢者に注意が必要なこととして、一般的な成人と高齢者では、薬の作用の仕方が異なることが挙げられる。さらに、個人差も大きく、薬の効き方や副作用の現れ方も人によってさまざまだ。
前述のように高齢者は複数の病気を持っていて、処方されている薬の種類も多い。加えて、高齢者ゆえ、薬の服用方法や服用する量を間違えてしまうことも少なくない。そう考えると、薬に関しては、高齢者の特性と、薬剤について十分な知識を持つ医師がしっかり管理すること。その上で、できるだけ服用する薬の種類と量を減らすことが大切なのだ。
私は高齢者が入所する際、最初に服薬状況を確認し、多すぎる場合は、減らすように指示している。1人ひとりに対してどういう判断でどの薬を減らすのかを考える。口で言うのは簡単だが、実際に行うのは難しい。