対してヤザンは、大佐より何階級も低い中尉(後に大尉)です。野獣と呼ばれることもある粗暴(そぼう)な男として知られていますが、部下思いの描写もあります。

 また仲間を大事にしている様子も窺(うかが)えます。個人的な行動特性は攻撃的で、ときに狡猾(こうかつ)ですが、部下や仲間から見れば頼りになる存在なのかもしれません。

 組織の中でより高位にある大佐が自身を「部下」として意識し、より下位にある中尉が自らを「上司」と認識して行動しているのは、一見、階位と自我が逆転しているような、不思議な印象を受けます。

複数の自我や役割を意識せよ

 上司よりも部下の方が多くなった時点で、上司の自我をうまく発揮してもらいたいと思いますが、実態は意外と逆なことも多そうです。現場のリーダーであれば戦場の臨機応変の意思決定や柔軟な立ち回りを要求され、そうした活躍が戦績や評価に繋(つな)がることでしょう。

 それが本社や本部付けになった途端、組織の政治的なダイナミズムとは無縁ではいられなくなります。シャアでさえ、少佐として木馬を追いかけていた頃の方が、大佐になってからよりも上司っぽい様子が窺(うかが)えます。

 実世界を眺めていても、どうやら階級が高ければ自然に上司っぽくなる、というわけではさそうです。むしろ、階級が高くなることで部下の数が増え、個々人との日常的なコンタクトは失われがちです。反対に直接の報告や会議などで上司との接触頻度が増え、それまでよりも内向きにならざるを得なくなっていくのかもしれません。

 日々の習慣や行動が、自我や役割意識を強めていくというのは理解しやすいことです。顧客中心の社風をつくろうとか、社外に目を向けようというスローガンが掲げられることがあります。その解決には、日常的な接触頻度(ひんど)などといった簡単なことが、意外と役に立つ影響をもたらすのかもしれません。

 組織の中では多種多様な役割や階層が存在し、さまざまなダイナミズムの中で、複数の自我や役割を意識する必要があります。自身が最もうまく貢献できる立ち位置と自我を探してみるのは、キャリアを模索する過程で、役に立つヒントをもたらすかもしれません。