
「赤い彗星」の異名を持つエース・パイロット、シャア・アズナブルは、ガンダムの中でも強烈なインパクトを持つキャラクターです。物語の中では彼専用のモビルスーツが作られ、敵味方ともにその存在は広く知れ渡りました。今も“専用”キャラクターグッズが世に送り出され続けていることからも、その人気の高さがうかがえます。「認知が確立された」状態というのは、それほど重要なのです。今回は、マーケティングにおけるブランド論について、ガンダムの世界を通じて紹介します。
ガンダムで理解する「ブランド」の本質
日常会話では「ブランド品」などの表現で高級品を指したりしますが、一般的には金額にかかわらず企業や商品の商標、商品名のことを指します。マーケティングでは一連の概念を「ブランド論」として扱います。
近代マーケティングの父と呼ばれるフィリップ・コトラー氏やアル・ライズ氏、デイヴィッド・アーカー氏、日本人では石井淳蔵(いしいじゅんぞう)氏など著名研究者が、それぞれに研究成果を残し、さまざまな背景の実務家も自由な論説や持論を各所で展開しています。
今回は、ガンダム世界の中にブランドに近いものを探し、その本質を探(さぐ)ってみましょう。
ガンダムの世界におけるブランドとは
「赤い彗星」や「青い巨星」「黒い三連星」などと聞くと、即座にシャアやランバ・ラル、ガイア、オルテガ、マッシュの顔が浮かんできます。それは宇宙世紀を生きた劇中の人々にとっても同様であったことでしょう。戦時中には、英雄を取り上げて戦意高揚を図ることがあります。
ルウム戦役の戦勝式典の様子が『機動戦士ガンダムTHE ORIGIN(ジ オリジン)』に描かれているように、メディアに取り上げられていたエース・パイロットたちは、敵味方によく知られていたようです。マーケティングの用語を使えば「認知が確立された」状態です。
認知、すなわち「名を知られていること」は、ことさら大事にされがちな傾向があります。知らない人より知っている人の方がなんとなく安心な気がしますが、特にその人に興味を感じることはありません。同様に、名前を知られていることだけで商品に親近感を持ってもらえるわけでもなく、実は大した実効性はありません。
大事なのは「それが何をするもので、どのような効用があるのか」が知られていることです。マーケティングでは「機能」とか「ベネフィット(便益)」と呼びます。似ているようでも、ちょっと違う概念ですから、ついでに説明しておきましょう。
「シャア専用ザク」ブランドの「機能」と「ベネフィット」
ザクIIF型(MS‐06F)の推力4万3300㎏に対して、指揮官機のS型(MS‐06S)は約20%増の5万1600㎏へ強化されているとされています。これはモビルスーツを「主語」とした「機能」の話です。
対して、パイロットであるシャアの視点に立てば、自身の技量(ぎりょう)も伴って「通常の3倍のスピードで移動が可能」になりました。これが推力向上という「機能」から得られた即時的な「ベネフィット」です。