どうやって部下とチームを育てればいいのか? 多くのリーダー・管理職が悩んでいます。パワハラのそしりを受けないように、そして、部下の主体性を損ねるリスクを避けるために、一方的に「指示・教示」するスタイルを避ける傾向が強まっています。そして、言葉を選び、トーンに配慮し、そっと「アドバイス」するスタイルを採用する人が増えていますが、それも思ったような効果を得られず悩んでいるのです。そんな管理職の悩みを受け止めてきた企業研修講師の小倉広氏は、「どんなに丁寧なアドバイスも、部下否定にすぎない」と、その原因を指摘。そのうえで、心理学・カウンセリングの知見を踏まえながら、部下の自発的な成長を促すコミュニケーション・スキルを解説したのが、『優れたリーダーはアドバイスしない』(ダイヤモンド社)という書籍です。本連載では、同書から抜粋・編集しながら、「アドバイス」することなく、部下とチームを成長へと導くマネジメント手法を紹介してまいります。

リーダー克服すべき“勘違い”
「部下の“問題点”を指摘し、それを改めさせなければならない」
私は、数多くの企業で管理職研修を実施していますが、このように考えている、管理職・リーダーがたくさんいらっしゃることを実感しています。「部下を成長させたい」という思いの強い方ほど、この「問題指摘型アプローチ」にこだわりをもっているように見えます。
そして、この「問題指摘型アプローチ」は、今もなお「育成」における主流の考え方ですが、私は、このアプローチこそが、「上司部下」関係など職場にネガティブな影響を与えていると考えています。人間関係が良好で、生産性の高い組織・チームをつくるためには、この問題を克服する必要があると、確信しているのです。
「なぜなぜアプローチ」がチームを壊す!?
どういうことか?
順を追って説明していきます。
まず指摘しておきたいのは、「問題指摘型アプローチ」にこだわる人は、「解決策を導き出すためには、必ず『問題の明確化』と『原因分析』が必要である」という観念に囚われているということです。その典型が、「なぜ?」を3回繰り返すことを信条とする、「なぜなぜアプローチ信者」と言えるでしょう。
この考え方は、一見正しいように見えます。
しかし、「論理的思考に必須」と言われてきたこのアプローチは、ベルトコンベアーや工作機械を扱う「マニュアル・レイバー」における比較的シンプルな問題解決には有効ですが、因果関係が複雑にからんだ「問題解決」には適用できないからです。
たとえば、「最近、チームの雰囲気が暗い」「職場の人間関係がギスギスしている」「あの部下との関係性が悪化している」といった職場の問題は、因果関係が微妙かつ複雑なだけに、「なぜなぜ思考」によって原因を特定して、それを改善するというアプローチでは対応することは難しいでしょう。
「複雑な問題」を解決する、たった一つの「思考法」とは?
さて、このような「問題を生み出している原因を特定して、それを取り除く」という「問題解決型アプローチ」を、アドラー心理学では「原因論」と呼び、その逆に当たる「『よい意図=目的』を探し、その解決法を共に探す」というアプローチを「目的論」と呼びます。
つまり、「部下の問題点をビシビシと指摘する」上司は「原因論」に基づいたマネジメントを行っているということができます。一方、人間関係が良好で、生産性の高い組織・チームをつくるために、私がおすすめしているのが「目的論」に立脚したマネジメント・スタイルです。
「原因論」と「目的論」の違いを、もう少しわかりやすく整理しておきましょう。
「原因論」の考え方が近いのは、医療における「感染症モデル」と言われています。具体的には、風邪やインフルエンザ、コロナなど、ウイルスが引き起こす問題への対処法のことで、この場合、有効な措置は「ウイルス=問題の原因」の特定と除去です。つまり、「原因探し」と「原因除去」こそが有効だということになります。
一方で、「目的論」の考え方が近いのは、医療における「成人病モデル」と言われています。具体的には、ガンや糖尿病や高血圧などの成人病への対処法のことですが、こうした成人病の原因は、ウイルスのようにわかりやすく特定できるわけではなく、複数の原因が複雑にからみあっているのが常です。だから、「原因探し」と「原因除去」という「原因論」では、適切に対処することができないのです。
ガンを例に考えてみましょう。
ガンの原因としては、「遺伝」「ストレス」「食事」「睡眠」「運動不足」などさまざまなものが挙げられますが、現代医療においては、どれか一つの原因を特定するようなことはしません。なぜならば、さまざまな原因が複雑に絡み合って、ガンという病気が発症しているからです。
たとえば、「ストレス」が高いと、「睡眠」や「食生活」が乱れることは広く知られていますが、一方で、「睡眠」や「食生活」が乱れることで、「ストレス」が高まるという逆の因果関係もあります。このように因果関係が複雑に絡み合い、かつ原因が一つでなく複数ある場合、「原因の特定」に意味はないのです。
「できること」を片っ端から試す
では、どうすればいいのか?