一時代を築いた「もちもち」でも
「ザクザク」に適わないワケ

 また、ここ数年で多くの人の印象にザクザク食感が残るできごともあった。それがASMR(自律感覚絶頂反応)だ。ASMRとは「Autonomous SensoryMeridian Response」の略で、映像や音声などで聴覚や視覚を刺激することで、ゾクゾクしたり、心地よいと感じたりする状態のこと。実際、咀嚼(そしゃく)音や川の流れといった自然の音などを収録したコンテンツなどにハマる人も多い。

「かつてYouTubeで、食べ物を食べて、その咀嚼音を配信する動画が大流行したことがありました。そのような動画で、特に耳に残りやすかったのはザクザク食感の咀嚼音です。こういう文脈もあり、ザクザク食感の人気は上昇。メーカーとしても前述したような理由からパッケージで使いやすいため、ザクザクフードを押し出しているのでしょう」

 さらに、渡辺氏は他の食感にはない、ザクザク独自の特性についても触れる。

「ザクザク食感は、メイン食材のみならず、アクセントの食材にも使えて、商品に“バラエティ感”が出せるのです。例えば、フライドチキンやシュークリームは商品自体がザクザク食感ですが、一方で担々麺は、メインの麺自体がザクザクしているわけではない。そこにナッツというひと手間を加えるだけで、全体の食感を変えられるのがザクザクなのです。さらに、スイーツから主食まで、甘い辛いを問わず、カバーできる食感と擬音は、ザクザクしかないのです」

 ちなみに、「もちもち」も商品ネーミングや紹介文で多数使われ、一時代を築いたワードだ。ただ、渡辺氏によるとザクザクのほうが、もちもちよりバラエティに富むのだそう。

「もちもちは、ザクザクほど広くは使えません。例えば、ナッツを加えるだけでザクザク食感を演出することはできますが、もちもち食感をひと手間で演出するのは難しいですよね。また、もちもちは、咀嚼音が伝わりにくく、擬音としては使えません」

 たしかに、SNSや動画で商品を紹介する際に、食感を音で表現できるザクザクフードの強みは大きいかもしれない。

 また、ザクザクと似ている言葉だと、パリパリ、サクサクなどが思い浮かぶが、それでも渡辺氏はザクザクの汎用(はんよう)性には及ばないという。

「パリパリやサクサクはザクザクと似ていますが、これらでイメージするのは薄い食べ物や揚げ物など。ザクザクよりも、当てはめられる商品がやや限られる印象です。また、ザクザクのほうが食べた時の音が大きいので印象にも残りやすいですね」

 では今後、ザクザクの次はどのような食感のワードが流行するのだろうか。

「正直、わかりません。もちもち、ザクザクは既存の言葉がマーケティング的に再発見された形でした。既存の言葉だとザクザクを超えるような、バラエティ感が出せて、利便性の高いワードはないと思います。そう考えると今後は若い世代がまったく新しいワードをSNS上で作り出し、それがバズるというケースが考えられます」

 果たして今後、ザクザクを超える言葉は生まれてくるのだろうか。