「面白ければなんでもあり」なのか?

安斎 もう1つ、今回のテーマの根底には「逸脱とクリエイティビティの関係」という問題もあります。

 たとえば、起業家やアーティスト、テレビタレントなど、突出したパフォーマンスを発揮する人ほど、社会的な規範を逸脱しているケースがある――これは事実です。

 そこには確かに、組織やチームにない新しさ、奇抜さ、面白さが生まれる余地がある。

 でも、それが「何をしても許される」空気をつくってしまうと危険です。

 過去の成功によって“ポジティブなフィードバック”が強化され、周囲も笑って受け入れているうちに、気づけば「逸脱」どころではない不適切な行動・法に反する行動を招いてしまうことがある。

 人は、自分の“ウケたパターン”から抜け出せなくなるんです。

 肯定的なフィードバックのループが続くと、もうやめられなくなる。環境のほうが変わったとしても、ただひたすら過去のやり方を続けてしまう。

 個人の力だけではその影響力から抜け出すのは容易ではありません

 だからこそ、組織や社会がそうした逸脱行動に対して、どこまで許容し、どこで線を引くのかというフィードバック構造を整えていくしかありません。

 ある時点で、「かつてはこれが評価されたかもしれませんが、いまはもうポジティブに評価されませんよ」ということをしっかりと伝えられるような組織づくりが求められるのだと思います。

安斎勇樹(あんざい・ゆうき)
株式会社MIMIGURI 代表取締役Co-CEO
1985年生まれ。東京都出身。東京大学工学部卒業、東京大学大学院学際情報学府博士課程修了。博士(学際情報学)。組織づくりを得意領域とする経営コンサルティングファーム「MIMIGURI(ミミグリ)」を創業。資生堂、シチズン、京セラ、三菱電機、キッコーマン、竹中工務店、東急などの大企業から、マネーフォワード、SmartHR、ANYCOLORなどのベンチャー企業に至るまで、計350社以上の組織づくりを支援してきた。また、文部科学省認定の研究機関として、学術的知見と現場の実践を架橋させながら、人と組織の創造性を高める「知の開発」にも力を入れている。ウェブメディア「CULTIBASE」編集長。東京大学大学院 情報学環 客員研究員。主な著書に『冒険する組織のつくりかた 「軍事的世界観」を抜け出す5つの思考法』(テオリア)、『問いかけの作法』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、共著に『問いのデザイン』(学芸出版社)、『リサーチ・ドリブン・イノベーション』(翔泳社)、『パラドックス思考』(ダイヤモンド社)、『チームレジリエンス』(JMAM)などがある。