ビジネス環境や働き方が大きく変化する中、働く現場では「人と組織」をめぐる課題が複雑化している。近年では、個人の学習・変化を促す「人材開発」とともに、「組織開発」というアプローチが話題になっており、『いちばんやさしい「組織開発」のはじめ方』(中村和彦監修・解説、早瀬信、高橋妙子、瀬山暁夫著)のような入門書も刊行された。今回は、こうした「人と組織のあいだに渦巻くモヤモヤ」に正面から切り込んだ話題作『冒険する組織のつくりかた 「軍事的世界観」を抜け出す5つの思考法』の著者であり、気鋭の組織づくりコンサルファームMIMIGURI代表でもある安斎勇樹さんに「なぜ組織では“不満”や“傷つき”が言えなくなっていくのか」について話を伺った。(企画:ダイヤモンド社書籍編集局)

弱さを見せることが“禁止”されている
――ハラスメントなどを繰り返す人がいても、誰も何も言えない――。そんな空気が蔓延している職場には、どんな原因があるのでしょうか? 明らかな問題行動があるのに、それが見過ごされたり握りつぶされたりする組織の共通点について教えてください。
安斎勇樹(以下、安斎) なかなかタイムリーで難易度の高いテーマですが……まずよく言われているように、権力のある人が「空気」として大切にしている価値観を、周囲が忖度して守る――みたいな力学はたしかにあると思います。いわゆる“村社会”的な構造ですよね。その中では「空気を読める人」だけが褒められ、そうでない人は排除される。
そうした「村」のなかでは、暗黙のうちに「弱さを見せること」が禁止されているケースがよく見られます。たとえば、なんらかのモヤモヤを抱えている人がいても、「そんなことを口に出すな」「それは職場で言うことじゃない」という無言の空気があったりする。
なぜこういう空気が広がってしまうかといえば、経営層やマネジャー層が「弱みを見せてはいけない」と思い込んでいるからです。「社長は堂々としていなければならない」「役員は弱音を吐いてはいけない」――そういう“自己禁止”の連鎖が現場にまで浸透し、組織全体が「内面的なことは話してはいけない」という空気に支配されていくんです。
「代案ないなら黙ってて」は危険
安斎 その結果、「傷ついた」「嫌だった」という感情すら口にできない。問題を感じたとしても、「自分が解決策や代案を出せないなら言う資格がない」と思い込んでしまう。
これはかなり根深いルールで、組織の違和感や不満、つまり“声なき声”を封じ込めてしまう大きな要因になります。
実際、「代案がないのであれば問題提起をするべきではない」というのは、ある種の「正論」としてさまざまな組織にも浸透しているのではないでしょうか?
これはプロダクト開発のような文脈では理にかなっているかもしれませんが、組織の課題やハラスメントのような複雑な問題に対処するときには、かえってより大きな問題の温床になりかねない考え方だと思います。
「これはさすがにおかしくないか……?」と誰かが感じたとしても、「でも、別の解決策があるわけじゃないし、ひとまず黙っておこう」となってしまう。
その積み重ねが、やがて“腐った組織”をつくっていくんです。
「ネガティブな感情」も共有する仕組み
安斎 これを防ぐためには、「振り返り」のプロセスのなかに、モヤモヤや葛藤、弱音といった感情をチームで共有する仕組みを入れることをおすすめします。
しばしば振り返りにおいては「Keep(よかったこと、今後も続けたいこと)」「Problem(改善すべき課題)」「Try(次に向けた具体的アクション)」の3つに着目する「KPT」というフレームワークが用いられます。
しかし、『冒険する組織のつくりかた』では「KMQT(ケモキュート)」という独自フレームワークをご紹介しています。
・Keep――印象に残っているよかったこと、これからも続けたいこと
・Moyamoya――プロジェクト活動のなかでなんとなく引っかかっていて気になること、“モヤモヤ”すること
・Question――向き合っていきたい問い、探究していきたいこと(“モヤモヤ”を問いに変換すると?)
・Try――今後やってみたいこと
KMQTが優れているのは、あえて「モヤモヤ=弱み」を共有するステップを入れて、「代案」がない段階でも「些細な違和感」を口にできるようにしていることです。
みなさんの職場でもぜひ「KMQT(ケモキュート)」を使った振り返りを試してみてください。かなり効果が実感できると思います。