一升瓶の酒を18秒で飲み干したのは伝説だからな。ちなみに猪木さんは大ジョッキの生ビールを4秒で飲む特技を持っていたけど、あれは飲んでるんじゃなくてアゴの中に注いでるだけじゃねえのか、なんてことは俺は言ってねえぞ(笑)。
プロレスラーっていうのは、酒の席でも張り合うんだよ。巡業中、旅館で宴会が始まると、頃合いを見て猪木さんが「おい、この一升瓶を全部飲んだら3万円!」って言ってポーンとお金を出すんだよ。
そうすると坂口(征二)さんは1万円を出して、山本小鉄さんや星野勘太郎さんも1万円出す。それで俺ら下っ端は1000円や2000円ずつ出してな。
それを集めるとお札のちょっとした山になって、いちばん先に一升瓶を飲み干したヤツが総取りになる。場を盛り上げるための余興だよな。
数百万円もの修繕費を猪木は
「思ったより安かったな」と払った
当時は道場での練習は殺伐としていたし、会場に行っても緊張の糸が張り詰めていたから、その緊張をほぐして親睦を深めるために必要だったわけだ。そういうときに命をかけるのが荒川さん。よく急性アルコール中毒で死ななかったと思うよ(笑)。
宴会ではいちおう無礼講ってことになるから、俺らも酔っ払ったフリをして猪木さんや坂口さんに絡むわけだ。それで愚痴をこぼしたり、普段は言えない文句みたいなことを言ったりすると、猪木さんや坂口さんは、「そうか、そうか。わかった、わかった」と言って子守をしてくれたんだよ。
長い巡業のなかで緊張状態が続くと、そういう宴会をポンッと入れてくれてたな。そこで猪木さんや坂口さんに甘えさせてもらえたんだ。

藤原喜明、前田日明、鈴木みのる 著
だから有名な熊本の旅館を一軒ぶっ壊してしまった宴会(1987年1月23日)(編集部注/九州巡業の宿泊先の酒席で、レスラー同士の乱闘が原因の通称「旅館破壊事件」)があったけど、あの時も修繕費として数百万円払いながら、猪木さんは「思ったより安かったな」って言っていたからね。そうとう懐が深いのか、金銭感覚がぶっ飛んでいるのか、その両方かのどれかだろうな(笑)。
そういう席に荒川さんみたいな人がいるとやっぱり面白いし、思い出にも残るんだよ。だから猪木さんは後年、俺に会うと必ず「おい、荒川は元気か?」って言っていた。一緒に酒を飲んで昔話をするときも、出てくるのは荒川さんの話ばっかりだよ。
だから、猪木さんが亡くなる2年前にサンペイちゃんが開いた「アントニオ猪木会長を囲む会」の時、俺は自分で描いた荒川さんのイラストを持っていったんだよ。あの時、すでに荒川さんは亡くなっていたけど、生きていたらいつものように宴会を盛り上げてくれてただろうなと思ってな。