猪木さんはスタミナの筋肉
荒川さんは瞬発力の筋肉
プロレスの興行というのは、だいたい8試合ぐらいあるわけだから、全部が全部、同じような試合ではつまらない。シリアスで怖いプロレスが続いたら、1試合ぐらい面白いことをやってもいいんだよ。荒川さんはちゃんとした実力があって“ひょうきん”をやっていたから、周囲から一目を置かれていた。サーカスのピエロが本物の実力者じゃないとできないのと一緒だよ。
荒川さんはもともとやっていた柔道が強かったし、なにより力が強かった。俺が入門したばかりの時、荒川さんは道場でベンチプレス180キロを挙げてみせて、「俺は新日本プロレスでいちばん力が弱いんだ」なんて言っていたんだ。もちろん荒川さん流の“カマし”だったけどな(笑)。
あの筋力は遺伝、DNAによるものが大きいだろう。俺も若い頃から筋トレをガンガンやったけど、筋肉はそれほど大きくならなかった。
猪木さんも力は強かったけど、俺と同じようなタイプ。猪木さんは柔らかい筋肉で、力がずっと続くスタミナの筋肉なんだよね。じゃなきゃモハメド・アリと15ラウンド闘うなんてできないよ。反対に荒川さんは瞬発力の筋肉だった。スタミナはないけど短時間ならものすごい力が出る。新日本で瞬発力のパワーがすごかったのは、長州力と荒川さんが双璧だったな。
荒川さんは、寝技のスパーリングをやらせても強かった。関節技を極めるのがうまいわけじゃなかったけど、とにかく力は強いし、腕は短いし、足も短いしですごく極まりにくかったんだ。だから負けることはなかったけど、だいたい引き分けだったな。
プロレスラーは酒の席でも張り合う
一升瓶の酒を18秒で飲み干した荒川
ただ、さっきも言ったけど、荒川さんはスタミナがないんだよ。練習と遊びを兼ねて、よく俺と相撲を取ってたんだけど、十番までは俺が一、二番勝てたらいいほうなんだ。だけど十番を過ぎると俺のほうが断然強くなる。荒川さんはスタミナが切れて、全然力が入らなくなるからな。だからよく「相撲は一番勝負だ!」なんて言っていたよ(笑)。
でも、スタミナが切れるまでのあの人が強かったことは確か。5分間だったら誰にも負けないんじゃないか。いや、5分は言いすぎた、2分間だな。2分間は最強でもそれを過ぎると弱くなるから、3分1ラウンドはもたなかったかもしれないな(笑)。
荒川さんが一目置かれていたというのは、そういった面での強さだけじゃなく、「プロレスラーは怪物である」ということを見せるために、誰よりもムチャをするからでもあったな。それが発揮されるのが、酒の席だよ。