やはり研究が進められているが、実現するにはもうすこし時間がかかりそうなのが、人工子宮だ。これは、体外で胎児を育てる技術だ。子宮内では、胎児は羊水につかり、母体とつながる胎盤から酸素や栄養分の補給を受けている。人体の外で胎児を育てるためには、このような機能を人工的に再現する必要があり、それは容易なことではない。
しかし、哺乳類を用いた研究はすでに進められており、東北大学の研究チームは、人工子宮内で羊の胎児を50時間以上生存させることに成功したという(注2)。もちろん、人間の胎児を10カ月育てることは、はるかに困難な作業だ。しかし、100年後には、水槽のなかで胎児を育てるというSF映画に出てくるようなことが、可能になるかもしれないのだ(注3)。
これらの技術とは対照的に、すでに技術としては存在しているが、実際に利用される可能性は低いのが、クローン技術だ。クローニングとは、ある個体とまったく同じ遺伝子を持つ個体(クローン)を人工的につくる技術だ。
質の良い牛を作るために
クローン技術はすでに使われている
クローニングには2つの方法がある。
1つは受精卵クローニングと呼ばれる方法だ。受精卵が細胞分裂を繰り返してできた初期胚(はい)を分解し、それぞれの細胞から遺伝情報が収められている核を取り出して、核を取り除いた卵子に移植し、電気刺激を加えて融合させる。
そうすると、この卵子は受精卵と同じように働くようになる。これを代理母となる個体の子宮に移植し、妊娠・出産させる。このような作業を行うと、1つの受精卵から、まったく同じ遺伝子を持つ個体を同時に複数つくることができる。つまり、一卵性の双子、三つ子……を人工的につくるのだ。この受精卵クローニング技術は、畜産業において、質のよい牛などを複数つくる際に利用されている。
しかし、三つ子や四つ子を人工的につくることには、人間の場合にはあまり意味がないだろう。人間に用いられる可能性があるのは、体細胞クローニングと呼ばれる技術だ。体細胞クローニングでは、すでにいる個体の遺伝的なコピーをつくり出す。