コピー元となる個体の体から、細胞を採取する。そしてその細胞から核を取り出し、核を取り除いた卵子に移植する。この卵子にしかるべき電気刺激や化学的な刺激を与えると、やはり受精卵と同じように働くようになる。そのあとは受精卵クローニングと同様だ。

 この技術を用いた場合、たとえば5歳の雄牛をクローン元とすると、この牛とまったく同じ遺伝子を持った赤ちゃんの雄牛が生まれることになる。体細胞クローニングは、いわば年の離れた一卵性双生児を人工的につくり出す技術だ。

 体細胞クローニング技術は、ある個体の遺伝的コピーをつくる技術だ。しかし、遺伝子はコピーできても、経験や記憶などをコピーできるわけではない。クローン元とクローンの年齢も離れている。したがって、この技術によって文字通りのコピー人間をつくることは不可能だ。この点は、SF映画に出てくるクローン技術との大きな違いだ。

クローン技術の医療への利用
横たわる線引きの難しさ

 クローン技術と聞くと、独裁者が自分のクローンや屈強な兵士のクローンを大量に作成する、知らないあいだに自分のコピー人間が作成されるといった、SF的なストーリーを思い浮かべる人が多いだろう。そして、もしそのように利用されるとすれば、クローン人間の作成を認めるわけにはいかないだろう。

 実際、クローン技術にかんしては、日本でも、2001年に「ヒトに関するクローン技術等の規制に関する法律」が制定され、クローン人間の作成は罰則付きで禁止されている。

 しかし、人間を対象としたクローン技術の利用には、これらよりもはるかにまっとうな動機も考えられる。たとえば、カップルの一方の生殖能力に問題があるが、第三者からの精子提供などは利用したくない場合、体細胞クローニング技術を用いれば、男性または女性とまったく同じ遺伝子を持つ「子供」をつくることができる。

 また、カップルの一方が重い遺伝病を持っており、子供に遺伝子の異常が受け継がれることを避けたい場合には、病気のない側のクローンを作成すれば、病気の遺伝は確実に回避できる。

 現在の日本では、このような場合も含めて、クローン人間の作成は禁止されている。しかし、これらは悪意のある利用ではないし、ある程度の医学的必然性もある。このような場合になぜクローン技術の利用を認めるべきでないのかは、それほど自明なことではない。