人は1000歳まで生きられる?「技術的にはできそう、だが…」東大教授が懸念する恐るべき未来写真はイメージです Photo:PIXTA

現在「細胞の老化に関する遺伝子」を改変して寿命を伸ばすという技術が研究され、マウスレベルではすでに成功済みだという。近い将来、人間は1万歳まで生きることができるようになるのか。その場合の弊害や問題点とは。東大教授たちが集まりテクノロジーの未来を解き明かす。本稿は、瀧口友里奈・編著『東大教授が語り合う10の未来予測』(大和書房)の一部を抜粋・編集したものです。

各国で莫大な予算を投入
不老の薬「NMN」研究

対談参加者(※当時の肩書き)
瀧口友里奈(経済キャスター)、合田圭介(東京大学大学院 理学系研究科 化学専攻)、加藤真平(東京大学大学院 情報理工学系研究科 コンピュータ科学専攻)、松尾豊(東京大学大学院 工学系研究科 人工物工学研究センター 技術経営戦略学専攻)、暦本純一(東京大学大学院 情報学環 学際情報学府)

瀧口 合田先生からは「1000歳まで生きる人間を作れる?」というテーマをいただきました。本当に1000歳まで生きる人間を作れるんですか?

合田 技術的にはできそうな感じです。人間に応用可能かということは置いておいて、少なくともマウスや昆虫レベルでは、寿命を数倍伸ばすことは可能です。そもそも「老化」というのは、細胞が老化することです。ですから、細胞の老化に関する遺伝子がどこにあるかわかれば、その遺伝子をノックアウトするか改変すればいい。それから、細胞は紫外線など外からの様々な刺激に対して、自分をプロテクト(保護)する機能があるんです。また、ゲノム(遺伝情報)が壊れたときは修復する機能もある。そういった保護・修復をしっかりやっていけば、基本的に老化は防げると思います。そしてそれを人間に適用したら、1000歳や1万歳まで生きることもあり得る話だと思っています。

加藤 すごく素朴な質問なんですけど、そういうテクノロジーを人間に応用するときは、やはり注射を用いるんですか?

合田 注射というのは、化学分子を体内に入れるひとつの方法なので、それもありです。他にも色々な方法があります。

瀧口 最近「NMN(ニコチンアミド・モノヌクレオチド*1)」が、不老の薬であるかのように言われていますけれど、あれも「老化は治癒できる」という発想から作られているんですか?

*1[NMN(ニコチンアミド・モノヌクレオチド)]「Nicotinamide Mono Nucleotide」の略。摂取することで「長寿遺伝子」や「抗老化遺伝子」と呼ばれる「サーチュイン遺伝子」を活性化させることが知られている物質。体内で自然に生成されているが、加齢によって減少していくといわれている。

合田 そうですね。あれは、いわゆる「アンチエイジング(抗加齢)」です。各国でものすごい予算が投入され研究されています。ただ、現在エイジング(加齢)を防ぐというのは「高齢者になるのを防ぐ」のか「健康寿命を伸ばす」のか「死なない技術を作る」のかということなどが、一緒になって議論されているので、そこをはっきりしないと「何が技術的にいいのか悪いのか」「何が倫理的にいいのか悪いのか」があやふやなまま技術開発が進んでしまいます。

加藤 やはり、重要なのは「健康寿命を伸ばす」ことですよね。

「超長寿」については
多くの議論が必要

合田 その先になると、もう哲学の話になってきますからね。私は否定派です。生物学的には人間はそんなに長く生きるべきではないと思います。人間はいろんなウイルスに晒されて生きています。そのために新しい感染症なども生まれて、環境も変化しています。そして、そうした変化に適応した次の世代が生まれてくることで、種として存続しているんです。それなのに、一人一人が1000年も生きてしまうと、種としてうまく機能しなくなります。