クローン技術の利用には、より微妙な事例も考えられる。たとえば、同性カップル(とくに女性同士のカップル)が異性の助けを借りることなく子供をつくりたいという場合はどうだろう。
独身女性が自分自身のクローンを「娘」とする場合はどうだろう。あるいは、第一子が白血病で骨髄移植を必要としている場合に、(確実に骨髄のタイプが一致する)第一子のクローンをつくるのはどうだろう。いずれの場合も、生まれた子供を親が愛情を持って育てる可能性は高い。しかし、あらゆる利用を無条件に認めるわけにもいかないように思われる。クローン技術の利用にかんする線引きは、難しい問題だ。
生殖医療技術の積極利用に
反対する人の意見とは
このように、生殖医療技術にはさまざまなものがある。これらの技術をめぐる根本的な問題は、関係者全員が同意していれば、どのような場合でも生殖医療技術を利用してよいかどうかだ。
一方で、不妊に悩む夫婦が体外受精を利用することに反対する人は、今日ではほとんどいないだろう。
これにたいして、依頼主と代理母がともに同意し、報酬面でも合意に達しているとしても、代理出産の利用に反対する人はそれなりに存在する。依頼主の女性に医学的な問題がないとすれば、反対する人はさらに増えるだろう。問題は、ある生殖医療技術の利用を認め、ほかの生殖医療技術の利用を認めない理由はなにか、ということだ。
ここで持ち出される理由のなかには、よく考えてみるとそれほど説得的ではないことがわかるものもある。たとえば、自然の摂理に反しているという理由で生殖医療技術に反対する人もいる。
たしかに、本来十分な生殖能力のない精子や卵子を用いて受精卵を作成したり、本来妊娠するはずではない女性が妊娠・出産したりすることは、きわめて人工的であり、「不自然」なことだ。
しかし、それはほかの医療技術も同様だろう。たとえば、がん患者は、「自然」な状態であれば、そのままがんが進行して死亡するはずであり、外科手術や放射線治療で腫瘍(しゅよう)を取り除くことは、人工的で「不自然」だ。未熟児を新生児集中治療室で治療したり、自力で呼吸できない患者に人工呼吸器をつけて延命を図ることも同様だ。なぜある医療技術は自然で、ほかの医療技術は不自然だといえるのだろうか。