――ところで、これまで多くの企業で様々なプロジェクトに携われてきましたが、仕事上の転機になった、自身の成長に繋がったといった印象深いエピソードがあれば、教えてください。
20代のときに経験した仕事での大失敗が、最も自分の成長に繋がったと思います。当時私は、P&Gで日本初のヘアケアブランド「インナーサイエンス」を立ち上げ、スポットライトを浴びていました。しかし、私の仕切りが悪かったせいもあり、4年余りで市場から撤退し、プロジェクトは頓挫。会社に何十億円も損害を与えてしまいました。あれほど追い詰められたことは、後にも先にもなかったです。
失敗の原因は「マスしか見ていなかった」こと。何がいけなかったのか、どうすればよかったかという問いが、トラウマのようにずっと続きました。この失敗を機に、性格も変わってしまったほどです。
成功より失敗から
学べることのほうが多い

次に行ったロート製薬でいくつか実績を手にし、その次のロクシタンジャポンでようやくマーケティングの全体像がわかってきて、それが40代のこと。
この数年は、スマートニュースを約1年でiPhoneおよびAndroidのアプリランキング1位へと成長させたというエピソードがありますが、実は成功体験ってあまり「学び」にならないんです。
うまくいくときは、だいたい想定の範囲内ですから。考えも及ばなかったことが起きて、衝撃を受けるときのほうが学びにつながる。ですから私は、新人マーケターの方々に「元気ある若い時代に、たくさん失敗したほうがいいですよ」と伝えたいですね。
――そんな西口さんにとっての理想のマーケター像に近い人は、増えてきていると思いますか。
新しい価値を作って頑張っている人は、やはりスタートアップなどの若い企業に多いですね。特に実務にきちんと携わっていて、BS(貸借対照表)、PL(損益計算書)に責任を持ち、売り上げと利益をきちんと見てマーケティングも担当する人は強いです。売り上げだけではなく、最終的にどれだけ利益を出せるかまで考えられないとおぼつかない。事業の全責任を負っていることが、理想のマーケターへの近道と言えます。