――同じ種類の話題かもしれませんが、マーケティングと混同されがちなものにブランディングという概念があると言われます。ブランディングの誤解はなぜ、どのように始まったのでしょうか。
そうですね。ブランディングはもともとコトラー教授が提唱した概念で、顧客にプロダクトやサービスの名称を認知させ、想起率を上げるための方法論です。そのブランディングという言葉が流行ったのは1990年代のことで、経営学者のディビット・A・アーカー教授がブランディングの概念を広げたのです。結果、解釈の幅が広がって「ブランディングをすれば売り上げが上がったり、業績が回復したりする」という過剰な期待も生まれました。
当時は様々な広告代理店、デザイナー、クリエイターたちが同調して、ブランディングが大流行。彼らからそれを紹介された企業経営者が飛びつきました。ブランディングは本来マーケティングの一部に過ぎませんが、ブランディングをやることがマーケティングだという錯誤が起きてしまったのです。
ブランディングは昔で言う「あらゆる難病にきくガマの油」のようなもので、過剰評価と本来の意味での過小評価が起きて、その本質が誤解されてしまった。当時の自分もまさしくその1人でしたね。
ブランディングだけでは
顧客のニーズは見えてこない
――1つのプロジェクトチームでブランディングを考えると、自分たちが顧客に伝えたいことの「押し売り」のようになってしまうことがあると思います。顧客にとって何が本当に必要な情報か、何をアピールすればいいかを、見失ってしまうかもしれませんね。
ブランディングというのは、「プロダクトやサービスを売るために何かいいことをしようよ」という漠然とした話に等しくて、実は何も言っていないんですね。「それってどんないいこと?」「誰にとっていいことなの?」というのが見えてこない。本来はその目的をきちんと設定すべきなのです。これは、経営戦略のあらゆる議論で使われる「イノベーション」という言葉と似ていますよね。